花子さんと恋に落ちた

口羽龍

1

 ここは東京のとある小学校。今日から新年度。新しい学年、新しいクラスで一緒に学ぶ。多くの子供たちが楽しみにしていた。そして、今年もまた1年生がやって来た。新しい学校で新しい学校生活を楽しみにしているだろう。そして、先月に小学校を卒業したかつての6年生は、中学校で新しい学校生活を送っている。


 そんな中、都内の小学校に転校生がやって来た。転校生の名は川島宙(かわしまそら)。同じ都内の小学校から転校してきたそうだ。宙は担任の小田(おだ)先生と一緒に歩いていた。これからお世話になる3年2組に向かっている。宙はこれから始まる新しい小学校での生活に心弾ませていた。


 3年2組では、生徒が小田を待っていた。今日からやってくる転校生の話をしている子供もいる。どんな転校生だろう。楽しみだな。


 小田が入ってきた。小田の後ろには、宙がいる。この子が転校生なのか。子供たちは宙を見ている。


「起立! 礼!」

「おはようございます」


 小田が教卓に立った。生徒は真剣に小田を見ている。


「今日からこの学校にやってきました、川島宙くんです。皆さん、仲良くしてやってください」

「はーい!」


 宙は小田から指定された席に座った。隣の席の女の子、上原(うえはら)は緊張している。とても可愛いな。


 朝の会が終わると、子供たちは宙の元にやって来た。もっと宙の事を知りたいようだ。


「宙くん、どこから来たの?」

「多摩市」


 子供たちは感心している。多摩市は東京のベッドタウンで、全域に住宅街が広がっている。


「ふーん」

「どうしたの?」


 宙は、子供たちの表情が気になった。何を考えているんだろう。


「いや、何でもないよ」


 子供たちは焦っている。ただ聞いただけなのに、悪かったかな?


「そっか。これから仲良くしようね」

「うん」


 宙はほっとした。新しい小学校で、どうなるだろうと思ったが、すんなり友達ができた。ここでもやっていけそうだな。




 その日は午前中で授業が終わり、宙は帰り道を歩いていた。小学校の校庭には桜が植えられていて、ちょうど満開だ。まるで新年度を祝っているかのようで、とても美しい。宙は満開の桜を見ると、心が軽くなった。きっと、いい事が起きそうだ。


「おーい、宙くん」


 誰かの声に気づいて、宙は振り向いた。そこには同級生の上田(うえだ)がいる。どうしたんだろう。


「どうしたの?」

「今日、僕んちでテレビゲームしない?」


 宙は驚いた。テレビゲームはいくつか持っていて、よく遊んでいる。前の小学校でも同級生とよく遊んでいた。この子とも遊びたいな。


「うん。いいよ。いくつか持ってるから、家に戻ってからこっちに来るね」

「うん」


 宙と上田は帰り道を歩いていた。多摩市と比べて、アパートやマンションが多い。何日か前から歩いているが、これが都会だろうか?


 しばらく歩くと、一軒家が見えてきた。ここが宙の家だ。


「ここが家?」

「うん。ちょっと待ってて」


 宙は自宅の鍵を持っていた。今の時間は、誰もいないようだ。


「わかった」


 宙は家の中に入った。家の中は誰もおらず、静かだ。ただいまと言おうとしても、誰もいない。寂しい帰宅だ。宙はすぐに2階に行き、ゲームソフトを何本か出した。面白いと思うゲームを自分で選択して、出してきた。


 1分も経たないうちに、宙は戻ってきた。


「お待たせ」


 宙の持っているゲームソフトを見て、上田は驚いた。こんなに持っているとは。すごいな。


「これ? けっこう持ってるじゃん」

「ありがとう」


 宙と上田は上田の家まで歩きだした。上田の家は10分ぐらい歩いた所にある。


「何時まで大丈夫?」

「うーん、5時までで」


 宙は母、香奈枝(かなえ)との2人暮らしだ。香奈枝は夕方まで仕事で、午後6時まで帰ってこない。それまでに帰れば大丈夫だろうと思った。


「わかった」


 2人は上田の家にやって来た。宙の自宅に似ている。宙は少し、親近感を覚えた。


 2人は上田の家に入った。家には専業主婦の上田の母がいる。この家には父がいるようだ。だが、宙には父がいない。今年の初め、離婚して家を出ていった。宙は少し寂しさを感じた。


 2人は上田の部屋でテレビゲームを始めた。宙はなかなかゲームがうまい。上田は驚いた。


「宙くん、なかなかうまいじゃん!」

「ありがとう」


 と、上田は思った。午後5時までって言ってたけど、何時までに帰ればいいんだろう。


「宙くん、家族がいるけど、大丈夫?」

「大丈夫。6時までに帰ればいいから」


 午後6時までに帰れば、家族は心配しないだろう。それまでに帰れば、なんにも言われないだろうと思っていた。


「そっか。働いてるの?」

「うん。6時に帰ってくるから、それまでに帰れば大丈夫って事」

「ふーん」


 午後6時に親は帰ってくるのか。ならば、けっこう遊べそうだな。明日も遊んでみよう。


 と、上田はつまずいてしまった。この先、どうすれば先に進めるんだろう。全くわからない。


「あっ、ここは、こうやってするの」


 だが、宙はコントローラーを上田からもらうと、いとも簡単に進んでいく。上田はそのうえで前に、驚いた。こんなにうまい子がいるとは。


「すっげー!」


 遊んでいるうちに、あっという間に時間が過ぎていった。そろそろ午後5時だ。家に帰る時間だ。


「あっ、そろそろ帰らないと」


 それを聞いて、上田は時計を見た。そろそろ午後5時だ。ゲームに夢中で、全く時計を見ていなかった。


「そういえばもうこんな時間だね」


 宙はゲームソフトをまとめ、帰る準備をした。上田はその様子をじっと見ている。


 宙は玄関の前にやってきて、振り向いた。そこには上田がいる。


「じゃあね、バイバーイ」

「バイバーイ!」


 宙は帰り道を歩いていた。上田とゲームをするのも、なかなかいいな。


「はぁ・・・」


 宙はため息をついた。父の存在が恋しい。だけど耐えなければ。これからは母と暮らしていくんだ。寂しいけれど、耐えなければならない。


 宙は家に帰ってきた。だが、鍵が開いている。まさか、香奈枝が帰ってきているのかな?


「ただいまー」

「おかえりー、遅かったじゃない」


 香奈枝は少し帰りが早かった。今日は早めに切り上げたようだ。


「同級生と遊んでいて」


 それを聞いて、香奈枝はほっとした。変な人に絡まれていないか、心配だった。


「そう。楽しかった?」

「うん」


 香奈枝は、夫の事を思い出した。不倫した夫と一緒にいたくない。自分だけを愛していないのなら、出て行ってちょうだいと言うと、すんなりと出ていったという。


「お父さんと別れられて、よかった」

「ふーん」


 だが、宙は全くその事に興味がないようだ。

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