君の命呼執。

百日草ジニア:不在の友を思う、絆、いつまでも変わらぬ心】

くちなし  燈華とうか



ー  ~

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 いお ー     ままま ま

 の       い え

  か へ  て     〇

 も    つ      い

 と し :_

 う  か

 お       う

 う

    か



 まま だいすき

  おうか だいすき

 おにい

 とうか

  てい おうか

 まま       すき



 ここ、どこ?

 おうかがないてる。

 だれ。

 ままは?

 しらないひといっぱい。

 こわい。

 おうかもこわいんだ。

 ぼくおにいちゃんだから。

 おうか。

 だいじょうぶ。

 おにちゃんいるよ。

 まま、ままってなかないで。

 ぼくもなきたくなっちゃうよ。



 さいきん、おうかがわらうようになってきた。

 がっこうでも友だちできたね。

 ママはいないけどおうかいるから大じょうぶ。

 みんなもやさしいからたのしいな。

 あ、おうか好ききらいだめだよ

 もー、しかたないな。

 これたべてあげるから、おうかもこれたべてよね。



 この前しせつに来た子、名前なんだっけ。

 いく。

 いくくんだ。

 いっしょにあそびたいのにぜんぜんこっち見てくれない。

 あ、わらった。

 女の子みたいだな。

 いっしょにごはんたべようよ。

 あ、ありがとうって言ってくれた。

 うれしいな。



 三人で公園で遊んでいると段ボールに何かいることに気付いた。

 この子、捨て犬かな。

 ほら、おいで。

 かわいー!

 後ろに立ついくは犬のことをこわがっているようだ。

 いく?

 なに、こわいの?

 ほら、かわいいよ。

 この子名前つけようよ。

 んーどうしようか。

 おうかがいざよいがいいんじゃない?と言った。

 え?いざよい?

 なにそれ、かっけー!

 おうか、頭いいな!



 煌華の隠してるお菓子を見つけた。

 俺はそれを持って維久との二人部屋に持っていく。

「維久、これ食おうぜ」

「え、それ、煌華のじゃ…」

 維久は不安そうに眉をハの字にする。

「大丈夫だって。これ、二人の内緒な」



「燈華。今日話があるから二十時に一人で相談室に来れるか?」

 山川さんに呼び出された。

 笑っていたから悪い話ではないのだろう。

 なんだろう。

 施設に入って結構経つけどこんなことは初めてだ。

 二十時、少し緊張しながら相談室に向かう。


「君の親にならせてほしいんだ」

 とても優しそうな夫婦。

 嬉しい。

「半端な覚悟でそう言っているわけではないんだ」

 でも何故か、俺だけらしい。

 煌華は一緒じゃないと言われた。

「貴方を見た時、もし子供が居たらこんな感じだったんじゃないかって」

 それはなんか、違うじゃないか。

「妹さんと一緒に引き取ってあげられないのは、申し訳ないと思っているんだ」

 あぁ、でもそういえば。

「もちろん、君が嫌なら断ってもらってもいい」

 煌華は維久のことが好きらしい。

「俺がもし、一緒に行くことを選んだ時、ここに煌華と維久に会いに来ることはできるんですよね」

 それに、親がいて友達がいて、普通の生活を送るのが俺の夢だったじゃないか。

「そりゃあ、もちろん。いつでも会いにおいで」

 これで俺はちゃんと普通の幸せを手に入れられるんじゃないか。

「わかりました。俺、二人の子供になります」

 煌華には維久が、維久には煌華がいるから大丈夫だろう。

「ほ、本当に?」

「嘘でこんなこと言いませんよ」


 俺は、梔 燈華になることを決めた。



「ちょ、母さん!今日友達と映画見に行くから起こしてって言ったじゃん!」

「あぁ!ごめんね!忘れてた!」

 そんなやり取りを父さんが笑いながら見てる。

「燈華、服が前と後ろ逆だぞ」

「え、うそ?!」



「燈華~。今日放課後どうする?」

「俺たちカラオケ行くんだけどさー」

「わり、俺今日バイトだわ」

 高校で友達も増えた。



「ここのチキン南蛮最高!明日はから揚げにしようかな」

「そんな頻繁に食べてよく飽きないねぇ」

「飽きるわけないよ!」

 ふじやの美味しい定食。


 あぁ、幸せだなぁ。

 思っていたよりもずっと幸せだ。

 二人とも元気かな。

 まぁ、二人なら仲良くやってるか。

 会いに行くとは言ったものの、なんだか会いに行っていいものかと、施設を出て一年以上経った今でも一度も会いに行くことができていない。

 でも、今はこれでいいのだとそう思う。



 本当に現実なのか疑わしいほどここに来てからずっと幸せだ。

 永遠なんてないというから、ずっと続くわけがないと分かっている。

 分かっているけど、永遠を願ってしまうよね。

 こんなに幸せだと。



「こんにちは。少しお話いいですか?」

 俺は命祀ノ棚に着くなり命呼執守にそう声を掛けた。

 命呼執守はやっていたことを一通り終わらせた後、俺を談話室に案内してくれた。

 命呼執守は思っていたよりも明るくユーモアのあふれる人物だった

「燈華君はどうしてここに来たのか聞いてもいいかい?あぁ、待って。僕が当てよう。ずばり、君がここに来たのは私のファンで…」

「あははっ。確かに命呼執守様は奇麗な顔立ちだし、ファンも多そうですよね」

「おぉ、そんな返され方をしたのは初めてだから、自分で言ったものの少し照れてしまうよ」

「でも残念ながら違います。不正解ですね」

 彼と話しながら、俺は言葉を探した。

 死にたいのでここに来ました…ではないし、死亡報告をしに来たのは本当だが、なんと説明すればいいのだろう。

 ただ、辛いしんどいみたいな気持ちでここに来ているわけではないからどちらかと言えば、明るい気持ちの方が強かったりもする。

 しかしながら、俺の状況では生きている間に死亡報告をすることはできないらしく、予想通りと言えど少し残念に思った。

 俺の話を聞いた命呼執守は大人として、命呼執守として止めなければいけないし、自分のエゴとしても止めたいと思ってしまうと言った。

 でも、心配してくれる気持ちが、俺のことを考えて止めたいと思ってくれた命呼執守のエゴが嬉しくて俺の気持ちに発車を掛けた。

 こんな俺はやはりおかしいのだろうか。

 普通の幸せを手に入れても、俺自身は普通でないままなのだろうか。

 俺はふと浮かんだ疑問を命呼執守にぶつけた。

 すると彼は「普通の人間なんてこの世にいないと私は思っているよ」と答えた。

「普通という概念は人によって異なるだろう?『普通はこうだ』というのは、ただの押し付けに過ぎなく、みんな共通の普通なんてきっとこの世に存在しないんだ」

「だからね。辛いときに死にたくなってしまう人もいれば幸せな時に死にたくなる人がいても何もおかしいことではないと僕は思っているよ。何もなくても死にたくない人がいるように、何もなくても死んでしまいたいと思う人もいるだろう」

 それが命呼執守の考えだった。

 俺は素直にいい考え方だと思った。

 俺は俺のままでいいのだと思えた。

 そして俺は「また来ます!」といい、命祀ノ棚をあとにした。



 俺は人に恵まれてると思うんだ。

 煌華って言う可愛い妹もいて、維久って言う優しい親友もいる。

 母さんも父さんも沢山愛してくれて、学校の友だちだってみんな面白いやつらばっかり。

 ほんとに幸せ者だなと思う。ほんとに幸せすぎて怖いくらい。

 この先これ以上に幸せな時なんてないのかもしれない。

 もし、そうなら。

 俺は一番幸せな時に死にたいって、そう思うんだ。

 煌華も、維久も、イザも、俺を引き取って大切に育ててくれた父さんも母さんも、みんな愛してる。

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ボクノミコト。 穹乃 羽癒 @Sassntuy31

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