第四章:帝王貝細工(ヘリクリサム)
「
燈華の
「君たち、
ぼくは、燈華がもう帰ってこないことを知った日の夢を思い出した。
「……見ました。燈華の走馬灯?みたいな」
煌華は答える。
「煌華も、その夢見たの?」
「うん、てことは維久も見たんだよね」
ぼくは頷く。
「それがどうかしたんですか」
ぼくは命呼執守の方を見ながら言った。
「君たちは命呼執守になる為に必要な才能を持っているんだ」
「才能…ですか?」
煌華は首を傾げながら言う。
「そう。才能だ。君たちのような美男美女が……って言うのは冗談で、死者の記憶を夢として見ることが出来る者は命呼執守になる才能がある、という事だよ」
命呼執守は説明をしながら微笑む。
「維久君、煌華ちゃん。君たちは命呼執守に相応しいと思うんだ。もちろん、将来の夢もあるだろうし、君たちの人生だ。選択権は君たちにある」
命呼執守はぼく達を真っ直ぐ見ながら言った。
「まぁ…こんな見た目をしているが、僕ももう、半世紀ほど命呼執守をしているものでね…そろそろ後継者を見つけなければならないんだよ」
「半せッ…?!え、半世紀…??」
煌華は驚いたように声を出す。
「驚いたかい?そりゃ驚くだろうなぁ。僕の見た目は二十五歳で止まっているのだからね。この時の僕が一番美形だからなぁ。ラッキーということだよ」
命呼執守はケラケラと笑う。
「え、じゃあ、命呼執守になれば、永遠に生きていられるってことですか?」
ぼくは命呼執守に向かって言った。
「それは違う。命呼執守を辞めるか、命呼執守になってから百年経つと、見た目こそ変わらないが、その後は五年しか生きられない。まぁ、どの命呼執守も半世紀ほどで後継者を見つけ辞めていくのだけどね」
命呼執守は命呼執守という仕事について丁寧に教えてくれた。
「命呼執守になるには主に二つの道があってね。僕達のように血筋…つまり両親が命呼執守だった場合。そして、君たちのように血筋ではないが、才能があった場合だね」
ぼくにはやりたいことが特にある訳では無い。命呼執守という人はぼくにとって、近いようで遠い存在だ。ただ、そんな命呼執守に憧れを抱いている自分もいる。
ぼくは命呼執守になりたいと思った。迷いはない。そして出来ることなら煌華と一緒に。
「煌華」
ぼくは煌華の方を向いて名前を呼んだ。
「うん」
煌華は言いたい事が分かっているように頷いた。
「ぼく、命呼執守になりたいと思うんだ。煌華と一緒に」
煌華は予想が外れたのか少し目を大きくし、そして嬉しそうな表情をして答えた。
「私も、維久と一緒に命呼執守になりたい。迷いもないよ」
そんなことが合ってから、十年ほど月日が経った。
「やぁやぁ、維久君、調子はどうだい?だいぶ慣れてきただろう」
「みことも…あ、いや、紫苑さん!」
二年前に命呼執守を引退した、ぼく達の師匠、紫苑さんがいつものようにケラケラと笑いながら近くにあった椅子に座る。
「お陰様で、仕事にもだいぶ慣れて、栞も上手く作れるようになってきたんです」
「維久君は栞を作るの苦手だったからね。最初に作った時なんて、花束みたいになってしまっていて、あれは思い出しても笑えるよ」
紫苑さん懐かしむような口調で言う。
「あれ、紫苑さん来てるの?」
「「のー?」」
奥で資料の整理をしていた煌華とぼく達の息子と娘が顔を出しながら言った。
「おやおや、煌華ちゃんと…
紫苑さんはにこにこしながら子ども達を抱き上げる。
「そういえば今日、妻が維久君と煌華ちゃん、もちろん広葉君と結華ちゃんも連れてご飯を食べに行かないかと誘っているんだけど、何か用事は入っているかい?」
「えっキクさんがですか?ぜひ!いつもの時間には終わらせるので!」
「じゃあ、ハンバーグは明日にしようかな。場所は決まってますか?」
広葉と結華は紫苑さんの腕の中でキャッキャとはしゃいでいる。
「少し遠いんだが、ふじやはどうかな?」
懐かしい名前にぼくと煌華は顔を見合わせる。
「車だとバス停に停まることもないし一時間半とかで
紫苑さんは嬉しそうに微笑む。
「キクも喜ぶよ。ではまたあとで、だね」
「はい!」
「きょうごはんおそとなのー?!」
「おむらいすもある?!」
「うんうん。あるよ。気を付けて来てね」
紫苑さんは広葉と結華を降ろすと「それじゃあ」と言って玄関を開ける。ぼく達は林の入り口まで紫苑さんを送ると、館内に戻り一息つく。
「じゃあ、ママはお昼の準備をしてくるね」
煌華は
「ぱぱー!みことのお話してー!」
「してー!」
子ども達は無邪気にぼくの膝に乗ってくる。ぼくは命呼執守になった頃のことを思い出しながら言う。
「少し、お浚さらいをしようか」
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