まずはじめに、公開されているプロローグを読んでみてください。驚くべきことに、この短い冒頭部分は、この作品がどういった作品であるかを全部説明しています。
まず、冒頭の夢のシーン。この部分で、主人公カナエの行動原理が明かされます。いや本当に、こいつはこの「泣いてる女の子を放っておけるかよ」で動いてしまうやつなのです。こういう主人公は、さんざん昔のなんかで擦られすぎているような気がして、ともすれば陳腐に感じる方もいるかもしれませんが、しかしこいつはその陳腐を、その心ひとつのみで貫き通そうとする大馬鹿野郎なのです。読み進めていけばあなたもその大馬鹿に惚れ、こういう男を我々は待ち望んでいたのだと心の底から思うようになるでしょう。
その後読んでいって、プロローグを読み終わった後に、話の展開や開示された設定、今どこにいてどこに向かうのかを思い出してみてください。それなりにスラスラ出てくると思います。ものすごく面白い小説でも、読んでいるうちに、こいつらは何でこんなことをやっているんだっけ、最終的にどこに向かうんだっけ、なんかすごいことやってるようだけど全然頭に情景が浮かばない、となる作品はそれなりにあるように思います。その点において、この作品は独自の設定、用語を多く使用していながら平易であり、頭にスムーズに入ってきます。これは電磁幽体先生の作品全体で共通しており、プロローグのテキストが心によく馴染む方は、この先読んで絶対にハマると断言できますので、(本が発売されたら)絶対に買いです。
このあとは現象妖精による異能バトルが繰り広げられます。物理法則を司るだけあり、スケールの大きいド派手なバトルがたっぷり楽しめます。ひたすら熱さを追求しており、もちろんめちゃくちゃ楽しい。ぜひその目で見届けてください。
もちろんプロローグだけで物足りない方は、電磁幽体先生の他作品を読むのもオススメです。要素がギュッとつまった構成の妙が楽しめる、どれも傑作ぞろいです。
本作は、電撃大賞作です。
はい、これでもうこの作品の面白さは約束されてて、これ以上レビューする必要なんてありはしないんですが。
それでも語りたくなるのは、世界観のオリジナリティです。
舞台としては、現代日本っぽい世界なんですが、妖精がいるんですね。
その妖精というのが、これまたユニークな設定になってて、
妖精=物理現象の化身 なんですよ。
物理現象っていうのは例えば、重力、とかそういう概念ですね。
これが妖精という小さな女の子の姿として、そこら中を飛び回ってる世界です。
そらもう、ワラワラ居るんですよ。
主人公の側にもいるんですね。
しかもメイド服を着せられて、可愛い妖精がいるんです。
おい主人公。その服、どこで売ってるんだ。自分で作ったのか主人公?
それともリカちゃん人形とかから奪ってきたのか、小一時間といつめたいけど、まあそういう世界なんです。
でもね。物理現象が人格をもって、好き勝手生きてる世界なんですよ。
重力とかが好き勝手生きてる世界。
わりと怖くね? ってことなんです。
ええ、怖いですよ。
プロローグでもその恐ろしさの片鱗がさっそく垣間見えます。
ファンシーで可愛いようで、とてつもなく恐ろしげな世界観。
絶対に他では見たことない、そして感じたことのない魅力がある世界に飛び込めると保証できます。