失った視界の先に、心で見る新しい世界が広がる

「眼鏡越しのタイムトラベル」は、喪失と再生のテーマが温かく描かれたSFファンタジーです。主人公・宙太が特殊な能力を持ちながらも事故で視力を失い、眼鏡をかけることで新たな視点を獲得するまでの過程は、単なる冒険物語という枠を超え、自己発見の旅を描いています。視力を失ったことでかつての霊的な力を失うも、祖母の励ましによって別の視野を持ち、視覚に依存しない新たな感覚を磨いていく様子が繊細に表現されています。

特に印象的なのは、祖母とのエピソードです。彼女の「試練は成長の機会だ」という言葉が、宙太の心に深く響き、彼が新しい生き方を見出す契機となっています。この祖母の温かい導きが、物語全体にやさしいトーンを与え、宙太が眼鏡を通して見える世界を新たに捉え直す力強い転機になっています。

最後に、宙太が開く古書店「迷子書房」は、彼自身が失ったものと再び繋がり、人々にも失われた希望や知恵を提供する場所として、象徴的な役割を果たします。この「失われたものを見つける場所」という設定は、彼の成長の物語に美しいエンディングをもたらし、読者にとっても癒しと再生のメッセージとして伝わります。

全体として、視点の変化や再生のテーマが心地よく、成長物語として大変読み応えがあります。時間と空間の隔たりを越えた深いテーマを描きながらも、家族の絆や自分の価値を見つめ直す普遍的なメッセージが込められており、多くの読者に響く作品といえるでしょう。

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