眼鏡越しのタイムトラベル
悠鬼よう子
眼鏡越しのタイムトラベル
幼き宙太にも、早くからその能力が見られ始めていた。彼は、家族とともに森の奥深くにある聖地で夜を過ごし、星空の下で神聖な儀式に参加するのが好きだった。その時、彼は自分の魂を神様のもとに送り、そこで聞き取ったメッセージを街の人々に神託として伝える重要な役割を果たすことができた。しかし、その平和は長くは続かなかった。
ある日、大陸崩壊の災厄が宙太の生活を一変させた。家族と山での集いから帰る途中、突如として地面が揺れ、宙太は崖から転落してしまった。奇跡的に生き延びたものの、この事故が原因で彼の視力は大きく低下してしまった。眼鏡をかけることになった宙太は、それが原因で
宙太は深い挫折感に苛まれ、自分の存在意義さえ疑うようになった。学校での成績も下がり、友達との関係も希薄になっていった。彼の心は暗闇に包まれ、自然とのつながりも感じられなくなってしまった。そんな時、宙太の祖母・
「宙太、人生には試練がつきもの。でも、その試練から学ぶことで、私たちは成長するのさ。眼鏡をかけるようになった今も、お主はまだ、お主自身なのじゃ。能力がなくなったわけじゃない。視る方法が変わっただけじゃ。お主の心と魂はまだ強く、美しい世界を感じることができとるよ、だから自信をもちなさい。」
宙太にそう諭すと、祖母は手際よく調理し、丁寧に皿に盛り付ける。その中でも特に目を引くのは、新鮮な
祖母の言葉は宙太の心に響いた。祖母の言う通り、物事を見る方法は一つではない。眼鏡を通して見える世界も、また美しいものだった。宙太は、失った能力を嘆くのではなく、自分に残されたもので何ができるかを考え始めた。祖母との会話から新たな希望を見出した。宙太は眼鏡をかけることが、別の世界への窓となり得ることを理解し、その限界を乗り越えてゆくことを決意した。
その日から、宙太は自分の周りの世界をより深く観察するようになった。彼は眼鏡越しに見える景色が、以前とは異なり、より鮮明で、詳細が際立っていることに気づいた。自然の美しさ、人々の表情、さらには文字に隠された意味まで、すべてが新鮮で興味深いものとなった。宙太は、失った能力を補うために、他の感覚を研ぎ澄ませることに専念した。
数年後、宙太は
今日は祖母の命日。古書店の奥で眼鏡を拭きながら、宙太は電話を取る。
「またあの子が…」
腹違いの姉・
「子育ては大変なこともあるけれど、姉さんはかけがえのない母親でもあり、素晴らしい女優だということも忘れないで。姉さんの愛情と忍耐はあの子にとってかけがえのないものだから、少し羽を伸ばすためにも、リフレッシュする時間を作ることも必要じゃないかな。あの子を預かってほしい時は、ご遠慮なく。」
愛梨沙の声からは少し安堵の気持ちが漂ってきた。宙太の言葉に励まされ、心の中でほんのりと微笑んでいるようだった。
「ありがとう、宙太。いつも心強いわ。本当に感謝してる。」
電話を切り、彼は再び眼鏡をかけ、一冊の古書に目を落とす。そのページは、祖母と共に学んだ古い神話『迷える子羊』の一節だった。
"遥かなる草原に佇む、白い毛皮をまとった子羊。彼は世界の果てを求めて旅を続け、星々の導きを頼りに進んでいった。時には荒れ狂う嵐に遭い、時には迷いの森に迷い込みながらも、彼の心にはいつも一つの光が輝いていた。それは母なる大地の声であり、彼の心の内なる声でもあった。彼はその声に従い、勇気を持って歩みを進め、終わりのない旅路の中で成長していった。そして、最終的に彼は自らの内なる光を見つけ、それが彼を導く真の道であることを知るのだった。"
「迷子書房」は、失われたものを見つける場所であり、希望を与える場所でもあった。人々が訪れ、過去の物語や知識を発見し、未来への可能性を見出す。その古書店は、宙太が新たな力を見出した場所でもあった。彼の旅はまだ終わっていない。新しい挑戦や発見が待ち受けている。
眼鏡は彼にとって、過去の自分を乗り越え、新しい世界を見るための窓となったのだった。
眼鏡越しのタイムトラベル 悠鬼よう子 @majo_neco_ren
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