めんどいめがね

ゴローさん

めんどいめがね

「まいどありがとうございました。」

 ――あなたぁぁぁ!

 めがねは悲痛に叫んだ。


 眼鏡屋さんで生まれて、約一年。


 同じ場所に鎮座していたら周りのメガネと仲良くなってくる。


 この叫んだ眼鏡は、隣りにいたメガネと仲良くなり、そして、先日半年の付き合いを経て、婚約したところだった。


 が。


 今日、私を見た人間の客が、「まあ、これでいいかな」という言葉とともに私を買いやがったのだ。


 あのメガネは、「君が一番美しいよ」って言ってくれたのに。


 人間は「まあこれでいいかな」?


 ふざけるな。

 そんな言葉で、そんな理由で、私達の仲を切り裂こうとするな。

 そう考えているうちに、私はへそを曲げてしまった。


 ――ふん、どうにでもなれ。

 ◇◇◇

 その人間は家に帰ってから、私をケースの中から取り出した。


「どれどれ、いい感じかなぁ」

 ――なによ、偉そうに!その感じむちゃくちゃうざいんですけど!

 心のなかで眼鏡は悪態をつく。


 が、次の瞬間。


「ん、なんかぼやけるなぁ。」


 ――あ


 昔、婚約していたメガネと喧嘩したとき、そのメガネが言っていたことを思い出す。

「そんな拗ねていたら、レンズ曲がっちゃうよ。」


 あのときは「何いってんだ?」くらいにしか捉えていなかったけど。


 ――ホントだったんだ!


 私は愕然とする。

 へそを曲げたら、メガネが曲がるなんて、知らなかった。

 いや、知らなかったんじゃない。

 ちゃんとあのメガネが言うことを聞いてたら……現実は変えられたのに……


「デザインはそれなりに良くて買ったんだけどな……流石にピントがズレてるメガネは役立たずだよなぁ。」

 ――やめて、私は役立たずじゃない。


「もういらないよ。めがねってどうやって捨てたらいいんだろ?」


 ――棄てるなんて言わないで!


「なになに……レンズは燃えないゴミでフレームは……プラスチック製だから燃えるゴミか。じゃあ、レンズとフレーム分けるか。」


 ――やめて。やめてぇぇぇぇ。


 カチッ


 ――あぁぁぁぁぁっ⁉


 その断末魔とともに、めがねは寿命を終えた。

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めんどいめがね ゴローさん @unberagorou

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