どんな未来を望んだのかわからないけれど

第1話

もしも、過去に戻ることが出来るなら

もしも、全てやり直せるなら

彼に幸せな未来を作ってあげることができたのだろうか。

犯罪者になるのを

私に1人に留めることはできたのだろうか。


そんな夢物語、考えたって現実になるわけないのに。


7時25分

スマホのアラームが部屋に鳴り響く。

カーテンを閉め切った朝はとても暗く 何も見えない。

手を広げ携帯を掴めば停止ボタンを押し

目を開く。

はっきりと映る天井

また、明日が来てしまった。

そんな憂鬱に駆られながら 起き上がる。

誰もいない部屋、荒れたキッチン

いつものように冷蔵庫からパンを取り出せば

部屋に持ち帰り着替えながら食べる。

7時48分

服を着替えご飯も食べ終えた私は鞄片手に靴を履き外に出る。

人が少ない通学路、鳥の声がやけにうるさく感じる。

また、始まるのか、なんて少し考えるだけで気持ちが沈む。

学校が見えてくる。

校門をくぐり、上履きに履き替える。

階段を登り、扉を開ければ

教室にいた人の視線が自身に向けられる。

そしてまた、聞こえてる事をわかってるのに

聞こえてないと思い込むかのように周りは言った

“ なんで普通に登校してこれるんだろうね “

聞きたくもない悪口も、机に置かれた花瓶も

全て自分のせいで、自分が選んだ道だから仕方がない。

後悔して、悔やんで、反省しても誰も許してはくれない。

過去に戻れはしない。

わかっていた、自分でも。

反省してるその言葉の裏にはきっと

もう聞きたくない、やめてくれ

なんて邪険な気持ちがあるのだろう。

本当に反省などしていないだろう、

自分でもそうわかっている、

自分は悪くない、反省なんてしてない、しなくていい

そう思ってることは自分が一番よくわかってる

でも、やめてほしいから、怖いから


反省してるなんて嘘を吐いた。


そんな自分が許されるわけがない

言い返すなんて許されない

聞き入れなきゃいけない。

例え、苦しくてどんなに嫌でも、

そうなるきっかけを作ったのは自分で

反省する勇気すらもないから、

仕方ないと、そう思わないといけない

そうわかっていても、どうしても

耐えられなくなってしまうのが人間だ。

『ねぇ……浅緋』

反省したら現実は変わるのだろうか、

それをどう証明したらいいのだろうか

どうせ過去も今も変わらないのに反省する

意味はあるのだろうか、

そう思ってる時点で今の私に反省などできないのだろう

自分が悪いのは嫌と言うほどわかっている。

でも、耐えられるほどの精神も

向き合う精神も持ち合わせていない。

中学3年生には重すぎる責任と罪に如何しても耐えることはできなくて

昼休み、一緒にご飯を食べていた浅緋に

泣きながら言葉を漏らした。

それを見た浅緋は“ お前が悪いんだろ “

なんて言わずに 手を引いてくれる

「んじゃ、俺と逃げちまおうぜ」

「わざわざ全てを受け止める必要なんてねぇんだし」

「受け止めたところで、どーせ現実は変わんねぇしさ」

笑いながら浅緋はそう言って

空いた手を私の頬に置いて 軽く涙を拭いてくれる。

そんな浅緋に一瞬でも呆れを感じる事ができればまだ、戻れたのだろうか。

意味もない思考が頭をよぎる。

その思考を無理矢理消してしまえば 頷いたあと手に引かれ立ち上がる。

教室から一番離れた階段。

居場所のない私たちにとって唯一心が休まった場所

2人手を握り 階段を降りれば 荷物を全て教室に置きっぱなしにしたまま 学校を出た。

平日の昼間に家に帰るのはいつぶりだろうか

浅緋の家に行き浅緋の荷物をまとめれば

私の家へと向かう。

部屋にあった少ない金と、リュックに荷物を入れそのまま電車に乗った。

街から人から逃げた。

人を浅緋を巻き込んでやる家出…逃避行は

非現実的で、すごく楽しかった。

電車で行ける限り遠くに逃げて、海で遊んで、

伸びた前髪を切ろうとして失敗して、

知らない人の金を盗んで、2人で笑い合って。

家も、味方も、何もなかったけど幸せだった

どうせ未来などない。

人を殺した犯罪者2人に

幸せな未来など来るわけがない。

だから、この日々が今が1日でも長く続くことを願った。

たった1秒でも、1分でも長く続くことを願った。

願って、願い続けて捕まることに怯えながら生きた。

何日も、何週間も、何ヶ月も。

「いたぞ!!」

後ろから響いた 男の声。

幸せが、この日々が終わる事を告げる声。

未成年、中学生2人

出来ることなんて限られてるわけで

長く続くわけがなくて、見つかるのは早かった

如何やって見つけてきたのか、なんて聞く暇も教えてくれるわけもない叫ぶ声に思わず足が竦む。

「黒川、走れるか?」

『走らなきゃ死ぬじゃん』

あの時とあの日と何も変わらない。

私が引っ張られて、怖がって。

浅緋が離さないよう手を強く握ってくれる。

振り返ることもせず、真っ直ぐ走った。

後ろから聞こえる “ 止まりなさい “

その声を無視し、ただ走る。

運がいいことといえば相手が

車やバイクではなく走りだということだろう

田舎町の山

木々をかき分け真っ直ぐ進んだ先に見えるは

蔦が生い茂る廃墟ビル

決めていた、終わる時は此処にしようと浅緋と約束した。

無理矢理扉を開けて 階段を駆け上がる

追いかけてくる警官の声が怖くて 頭が視界が見えなくなってふらふらしてくる

それでも、その気持ちを相手が知るわけも

理解してくれるわけもないから

ただ必走り 必死に逃げた。

10,11,12……何段も階段を登り

駆け上がった先にあるのは 夕暮れの空。

後ろから聞こえてくる階段を駆け上がる音を

無視し、私は言う

「黒川」

『明日は、月が綺麗だったりするのかな』

「明日は月見えないよ」

『そっか……残念だなぁ』

死ぬ気はなかった、いや死にたくなかった。

死んだらきっと今より苦しいし

まだ浅緋といたいから、遊びたいから。

でも、そんなのは

私の事情で向こうには関係ないのだろう。

だから、せめて死場所くらいは選びたかった

最初に泊まったネカフェで調べた廃ビル。

初めて出会った廃ビルとは違うけど

とても似てて、死ぬ時はここにしようと約束したこの地。

初めて来たのにどこか懐かしく感じる。

死ぬ時は廃ビルがいい

そんな私の我儘を聞いて

ここに連れてきてくれた浅緋には感謝している。

ほんとは追いかけられることなく

ゆっくり此処に来て、此処でゆっくりして

終わりたかった、終わりたいから。

『浅緋……ごめん』

幾度と罪を重ねた。

もうこれ以上重ねたところで何も変わらない

同じようなものだろう。

私の謝罪で全て察してくれたのだろう

浅緋は私の手を離し 一歩前に出る

ポケットに入っていた カッターナイフを

手に取り 駆け上がってくる警官を待つ。

階段を駆け上る音が痛いほどに耳に刺さる。

さっきと人数が変わらないのであれば、

警官は3人。

さほど多くないことに感謝するべきだろうか

駆け上がり、屋上に辿り着いた

警官が顔を上げ私を見た。

その瞬間、私は警官にカッターを突き刺した

今度は事故じゃない、ほんとに殺した。

自分自身で、この手で人を殺めた。

不安で、怖くて抜いてもう一度刺した。

警官3人に中学生2人

不利なのはわかっている

でも、1人は刺せた。

もう1人は浅緋が止めてくれている。

あと、1人だけ。

「もうやめなさい、こんなこと」

「まだ、若いんだしやり直せるから」

「俺が助けてあげるから」

床に倒れ込み息が荒い警官をみて動揺し

震えた声を出す最後の警官は私にそう諭す。

しかし、そんな言葉今もらってももう遅い。

『もっと……早く言ってくださいよ』

あの時、あの瞬間言ってくれていたら

未来は変わったのだろうか、そんなこと

今考えるべきことじゃない。

少しばかり顔を歪ませた後

諭す警官を押し無理矢理屋上から落とす。

それを見た浅緋が相手をしていた警官が

私に向かって叫ぶ

「犯罪者が!君がやってることは許されることじゃない!」

否定できるわけもない。

実際1人は刺し殺そうとした

今落とした人も死んだだろう。

しかし、不思議と気持ちがいい

後悔もなにもない。

叫ぶ警官を浅緋が押し屋上から落とす。

それを見ることしかできない、止めようと思えない。

やれ、とそう思ってしまう。

それがおかしいと分かるのに、理解できているのに不思議と恐怖は感じなくて。

近くにいた最初に刺した警官に俺は再度カッターを突き刺した。

現場は悲惨で、血生臭い。

しかしそれ以上に子供2人に呆気なく負けた

警官3人に乾いた笑いが溢れた。

そして、私は問う。

『……浅緋』

「なに?」

『私の手、汚いけど…掴んでくれる?』

「当たり前だろ」

人を殺した、犯罪者の手。

血まみれで、忌々しくて汚いこの手を

浅緋は私の手だから、と掴んでくれる。

“ どんな黒川でも、黒川なら俺は受け入れるよ “

いつも私の味方をしてくれた貴方が大好きだった。

屋上に2人きり

誰にも邪魔されず出会った時のことを

思い出しながら 縁に座り最後の会話をする。

「そーえば、あのアニメ2期くるよな」

『あー、来るね』

『まぁ……見ることはないだろうけど』

「それもそーだな(笑)」

くだらないこの会話が、どんな会話よりも

楽しくて、幸せだった。

『明日は…いや、今日は月が綺麗だろうね』

「それは……俺の台詞、だな」

何分くらい話しただろうか。

遂に、会話が止まる。

横を見れば 少し笑い目を瞑って頷く

浅緋が目に入る

言葉はないが、意味は察しがつく。

私は少し笑い返した後静かに頷き前を見る。

手を引きぶらつかせてる足で壁を蹴って

飛び降りる。

手だけは 離さないよう強く握れば、握り返してくる。

私よりも大きく 私よりも綺麗な手が

私の汚く小さい手を掴んで、離さないでいてくれる

その事実が凄く、凄く嬉しかった。

空を見上げれば過去を思い返す。

あまりいい人生ではなかった。

あの日貴方に出会えたことだけが救いかな、

1人、自問自答を繰り返す。

怖いすごく怖い

この先は苦しいことしかないんだろうな

嗚呼、終わっちゃうな

嗚呼、終わりたくないな

嗚呼、そうえば浅緋におっ━━━━━━━






━━の廃ビルには噂があってね、

夕方、屋上に行くと男女の霊が見えるって噂

その2人は付き合ってはないけど愛し合ってたんだって。


或る事件がきっかけで、2人は孤立して

最後は2人で飛び降りた。

その時刻は夕方

だから、このビルには夕方男女の霊が見えるんだって

2人の邪魔をしようとすると、殺されるから

2人の邪魔だけはしちゃいけないんだよ。

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どんな未来を望んだのかわからないけれど @yama0825

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