船着場に、テイラがいた。

「なんで?」

 今日は旅立ちの日である。彼女には知らせていなかったのだが。

「何が?」

「なんでここにいるわけよ」

「転勤」

「今日?」

「しょうがないじゃない。公員は突然転勤を言われるものよ」

 あきらかにおかしい。偶然、俺が町を出て行く日に、テイラも転勤することになるなんて。

「何の嫌がらせだ」

「こっちのセリフ! すごい護衛してくれるはずでしょ」

「……なあ、よく考えろ。護衛係なんて誰だっていいんだ。誰にでもすごく護ってもらえる」

 テイラは口をへの字にした後尖らせた。

「雛は最初に護ってもらった護衛係を信頼するのよ」

「だいたい、俺がどの町に行くかわからないだろ」

「どうかなあ。推薦書を書いたのが私でも?」

「は?」

「任命係は忙しいの。書類には最後に署名するだけ。文面を考えるのも清書するのも部下の仕事」

 つまり、今俺の鞄に入っている推薦書は、テイラが書いたってこと? 全部知ってたってこと? なんか、脱力する。

「これだから文字の書けるお偉いさんは……」

「私にとっての武器だからね」

 いろいろとあきらめた。大きな町になれば、大きな仕事が来ることもある。記録係を辞めるきっかけも多く訪れるだろう。

 その方がいいとも思うが、テイラが出世をつかむのも見てみたくはある。いつかあの中央公官に、同僚として「結婚相手はお決まりで?」と聞いてみてほしい。

「川に魔物が現れることもある。気を付けることだ」

「護衛がいるから大丈夫」

「勤務時間外だ」

 きっとテイラは、父親が恋しいのだと思う。俺はそんな年じゃないが、「頼れる男」と思われてしまったなら、仕方がない。

 次回は、推薦書を貰わずに旅立つことになるだろうか。

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討伐隊書記係護衛者アウレス 清水らくは @shimizurakuha

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