4-4

 バサバサッ、と音がした。

「そのまま」

 テイラの動きを手で制する。まあ、驚いて固まってしまっているが。

 音のした茂みを凝視していると、小さな鳥が飛び立っていった。

「びっくりした」

「安心するには早い。普通の動物だって襲ってくるかもしれない」

「護衛係が強いから安心よ」

「そうだといいが」

 テイラは俺の方を向いて、腰に手を当てた。

「アウレス、私辞めないからね」

「えっ」

「きついからとかでも辞めないし、妻になるためにもやめない」

「そうか」

 昨晩考えていたのだろうか。

「弱音を吐き始めたら、今日のことを言ってほしいの」

「今日のこと?」

「私が、宣言したってこと」

「わかった。そうするよ」

 さらに数羽、鳥が飛び立っていった。



「どうした。お前から誘うなんて珍しいじゃないか」

 トゥルボは満面の笑みを浮かべていた。偉くなると、なかなか若者に食事に誘われなくなるらしい。

「重要な話というか、トゥルボには伝えておくべきと思いまして」

「いつになく真剣だな」

「真剣です。この町を出て行こうと思って」

 一瞬トゥルボの目が、刃物のように光った

「何があった? 盗みでもしたか」

「悪いことは何も。……何もではないか」

「俺に止める権利はないかもしれないが……優秀な人間が出て行くのは止めたいものだがね」

「そう言ってもらえるとありがたいです」

 そう言われたかったような気がする。黙って出て行ってもよかったのだ。

「お前が怪我中はやりくりに苦労したよ。もっと大変になるかと思うと憂鬱だ」

「代わりはいくらでも現れますよ。今からここはもっと盛況になりますから」

「それが理由か?」

「いえ……テイラのことで」

「迷惑かけたか?」

「そんなことは。ちょっとね、いい奴すぎるんですよ。俺のことを信頼しすぎています。こうなったのは、俺の甘さです」

「別にそうは思わないけど、決心したのなら仕方ない」

「それで申し訳ないんですが……推薦を書いてもらえませんか。他の町で雇ってもらわなきゃいけないんで。図々しいですか?」

「いや、いいだろう。確かにお前は推薦に値する。この町よりいい条件のところで働くのも、いずれ自分のためになるのかもな」

「ありがとうございます」

 これでいいんだ。俺はもともとこの町にゆかりのない人間だし、気持ちよく仕事できるところに行くべきだ。

 俺の存在は、彼女の足を引っ張るかもしれない。だから、これでいいんだ。

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