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バサバサッ、と音がした。
「そのまま」
テイラの動きを手で制する。まあ、驚いて固まってしまっているが。
音のした茂みを凝視していると、小さな鳥が飛び立っていった。
「びっくりした」
「安心するには早い。普通の動物だって襲ってくるかもしれない」
「護衛係が強いから安心よ」
「そうだといいが」
テイラは俺の方を向いて、腰に手を当てた。
「アウレス、私辞めないからね」
「えっ」
「きついからとかでも辞めないし、妻になるためにもやめない」
「そうか」
昨晩考えていたのだろうか。
「弱音を吐き始めたら、今日のことを言ってほしいの」
「今日のこと?」
「私が、宣言したってこと」
「わかった。そうするよ」
さらに数羽、鳥が飛び立っていった。
「どうした。お前から誘うなんて珍しいじゃないか」
トゥルボは満面の笑みを浮かべていた。偉くなると、なかなか若者に食事に誘われなくなるらしい。
「重要な話というか、トゥルボには伝えておくべきと思いまして」
「いつになく真剣だな」
「真剣です。この町を出て行こうと思って」
一瞬トゥルボの目が、刃物のように光った
「何があった? 盗みでもしたか」
「悪いことは何も。……何もではないか」
「俺に止める権利はないかもしれないが……優秀な人間が出て行くのは止めたいものだがね」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
そう言われたかったような気がする。黙って出て行ってもよかったのだ。
「お前が怪我中はやりくりに苦労したよ。もっと大変になるかと思うと憂鬱だ」
「代わりはいくらでも現れますよ。今からここはもっと盛況になりますから」
「それが理由か?」
「いえ……テイラのことで」
「迷惑かけたか?」
「そんなことは。ちょっとね、いい奴すぎるんですよ。俺のことを信頼しすぎています。こうなったのは、俺の甘さです」
「別にそうは思わないけど、決心したのなら仕方ない」
「それで申し訳ないんですが……推薦を書いてもらえませんか。他の町で雇ってもらわなきゃいけないんで。図々しいですか?」
「いや、いいだろう。確かにお前は推薦に値する。この町よりいい条件のところで働くのも、いずれ自分のためになるのかもな」
「ありがとうございます」
これでいいんだ。俺はもともとこの町にゆかりのない人間だし、気持ちよく仕事できるところに行くべきだ。
俺の存在は、彼女の足を引っ張るかもしれない。だから、これでいいんだ。
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