4-3
「ありきたり、なのかな」
「結構あるさ。魔物に滅ぼされた集落ってのはね。それだけならまあ、運が悪かったって話だが」
「それだけじゃない、と」
「大規模な魔物討伐計画があった。魔物を一か所におびき寄せ、殲滅する」
「それって……」
「村は、うまい囮になったさ。多くの人間が死んだが、それ以上に魔物は殺された。討伐隊によって。生き残った俺は、悩んだよ。誰を恨めばいいか。考えて考えて、考えるのをやめた」
語れば、思い出してくる。そう、あの時討伐隊は喜んでいたんだ。俺たちは最初、彼らが助けに来てくれたのだと思った。けれども、村人の命なんてどうでもよかったんだ。
「それで、討伐隊には加わりたくないんだ」
「そう。一緒にいるのはどうだって聞かれると困るがね。戦うぐらいしか、生きていく道がなかったから」
「それで護る仕事を選んだのは、かっこいいじゃない」
「そんなことはない。そんなことはないさ」
あたりが暗くなり、炎が赤く燃え上がっているのが鮮明になっていた。
一度思い出すと、なかなか忘れることなどできない。
あの日、家族も、有人も、恩人も、すべてを失った。
復讐心とか、そういうのは浮かばなかった。誰に復讐していいかわからなかったのだ。
強くなって見返してやろうとか、そういうことでもない。
当時、記録係はまだいなかった。村を犠牲にしたことが、きちんと報告されたとは思えない。
俺に学があればもっと何か目指すべきものがあったのだろう。学がないので、目指すべきものについても知らなかった。
もし、あの時と同じような作戦があったら。俺は黙って、書記係を護り続けるだろうか。その記録が正しいことを信じて、ただ見守るのだろうか。
わからない。わからないときは眠るに限るのだが、なかなか寝付けなかった。
「ゆっくり追い込めー」
テクノア隊は、難なく土連猪を追い詰めている。本来こういう、一匹を追い詰めるときに討伐隊は本領発揮する。
とはいえ、安心してもいられない。別の魔物が出てくるかもしれないからだ。
「ただ奪うだけの人が、いたのね」
テイラは、砦の存在が驚きだったようだ。かつて野盗たちはここを拠点として、略奪に出かけていた。彼らにとって奪うことが生業だったのである。
「俺たちも、魔物にとっては奪うものかもしれない」
「そういう考え方もあるのね」
「まあ、魔物は人間を襲ってくるから、仕方ない、と思いやすい」
なぜ魔物が人間を狙うのかはわかっていない。食べるわけでもなく、ただ向かってくる。だから、迎え撃ち、討伐する。
「……ねえ、アウレスはどう思う? 私……ここで出世できると思う?」
「公員のことはわからないが……根性はあるんじゃない? 若い記録係は最初だいたい音を上げてるよ。それに、中央公官に対してもなびかなかった。俺はいいと思う。出世できるかは知らないが、出世してほしいね」
「ありがとう。アウレスは出世したら何になるのかな?」
「すごい護衛、とかかな」
「じゃあ、すごい護衛してもらわなきゃ」
俺は討伐隊記録係以外を護衛するつもりは、ない。そして出世とは、討伐隊記録係でなくなることだ。
俺に護衛されてる場合じゃないよ、と思ったが口には出さなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます