4-2
久々に、山道を進んでいる。
前にいるのは、テクノア討伐隊の面々。俺の隣には、テイラ。
「本当にこの先に砦があるの?」
「あるはずだ」
今回のテクノア隊の任務は、砦を拠点として利用できるように、周囲の魔物を討伐するというものだった。砦はかつて、帝国の兵が使っていた。山奥にあるのは、略奪の拠点だったためである。戦争というのは領地を求めるばかりではない。隣の国から物を奪うのが、かつての主だった目的だった。
全てが帝国領となり、略奪は意味がなくなった。それに伴い、砦も利用されなくなったのである。しかし今後西へと開拓していくため、拠点が必要となった。敵は魔物であり、山中の砦は便利だと考えられたのである。
とはいえ、俺も見たことのない砦に向かっていくのは不安だ。城もそうだったが、魔物の住処になっていた日には目も当てられない。
「なんか、この仕事してると修験者になった気分」
「……都に誘われたんだろ? 修験道ともお別れか」
「行かない」
「目指してたんだろ」
「中央公官をね」
「じゃあ行ったらいいじゃないか」
「……夜になったら話す」
何があったかは知らないが、何かがあっただろうことは最初からうかがい知れた。まあ、上手く護衛するためにも知ることは必要だろう。
夜になる前には、砦に着くことができた。ベルクフリートよりも朽ちておらず、比較的しっかりした形で残っている。最近まで誰か使っていたのか?
中を確認したが、魔物はいなかった。
「今日からここが拠点だ。盗賊気分を味わおうじゃないか」
テクノアの声が弾んでいる。
皮肉ではない。俺も含めて、皆昔なら本当に盗賊になっていたかもしれない。兵と言うのは敵と相対しないときは略奪を常としていたし、戦争が終わると無職となり実際盗賊になった。盗賊と戦うために力を付けた民衆の中からも、その力を盗む側で使った方がいいと気づく者がおり、「力ある者は奪うもの」になっていた時代があるのだ。
帝国の支配が行き渡ってくると、そんな者たちは「国の敵」になっていった。神の名のもとに正式に結成された兵団が、盗賊を敵とみなした。以来、力ある者は魔物を敵とすることになったのである。
それでもならず者集団は存在する。彼らは明白に毛嫌いされている。だが、憧れもあるのだ。「昔はなあ、力の限り奴らから奪い取ったものさ。別に悪いことじゃない。神に従わない奴らだからね」などと言う老人は珍しくなかった。
「アウレス、何か考えてる」
「珍しくね。盗賊気分になっていいものかどうか」
「なりたいの?」
「なるしかなかったかもしれねえなあ」
薪に火が点いた。いつものように、二人で食べる食事の準備をしなければならない。
「私も、他の仕事考えればよかった」
「いつになく弱気だな」
「さっきの話……セノンドの」
「ああ」
「求婚された」
しばらく、意味が分からなかった。しばらくしてセノンドは男で、テイラは女であるという当たり前の事実と結びつけることができた。
「つまりあれか、妻になれと」
「そう。私のような女が好きで、中央に来られるならちょうどいいだろうと」
「仕事はどうなる」
「辞めることになる、よね」
公員同士が結婚すれば、どちらかが辞めるというのが暗黙の了解だ。そうでなくとも、中央公官にするために結婚を求めるのも無礼だろう。どちらにしろテイラにうれしい話ではないはずだ。
「結婚相手としてはどうなんだ、セノンドは」
「好みじゃない」
「どうしようもないな」
「ばかみたい。私の父のことも当然知ってるから、施しのつもりで言ってるのかも」
「施し?」
「父は賄賂の罪で捕まった。みんなを救うために、手を尽くしたのに。公庫に手を付けるのは重たい罪。母は弱って、亡くなってしまった。私は……復讐したかったのかな。父より偉くなって、堂々と公倉を動かせるぐらいになりたかった」
「そうか」
「アウレスは?」
「え」
「私だけに悲しい話させるつもり?」
「いやあ」
そう言えば、自分の身の上話を誰かにしたことがない。というか、聞かれたことがないのだ。町では友人を作らず、仕事の関係しか持たなかった。
「村が滅んだという、ありきたりな話だよ」
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