5話

 ダンジョンから家へと帰る途中、私は星降堂ほしふりどうに立ち寄った。

 私が購入した「真実を見るグリーザー」は、期待以上のすごい魔法アイテムだった。店主の魔女にちょっとしたお礼をしようと、思ったんだ。ダンジョンのF5で採取した宝石の実を、お裾分けしようかな、なんてね。

 昨日と同じ場所に、星降堂ほしふりどうはあった。相変わらず、キラキラした魔法アイテムだらけで、目が眩んでしまいそう。


 店の中に入る。

 カウンターの奥に、魔女は立っていた。


「いらっしゃい」


 魔女は微笑んで言う。

 私はカウンターに宝石の実を置いた。お裾分けだと言おうとしたけど、魔女はゆるゆると首を振る。まるで、私の心を読み取ったかのように。


「それは、君が手に入れたものだろう。私はいらないよ」


 その言葉に壁を感じて、私は眉を寄せた。

 別に、数個受け取るくらいいいだろうに。そう思ったが、魔女の考えは違うらしい。


「そもそもね、私が君に『真実を見るグリーザー』を売ったのは、賭けでもあったんだよ」


「……賭け?」


 魔女は頬杖をついて私を見る。薄っすらと笑みを浮かべて、私にこう言った。


「あのクエストを出したのは私でね。

 あの階層に留まって、痒みに苦しんでいる鋼鉄鹿が可哀想だったんだ。だけど、私は攻撃系の魔法は苦手でね。力がある誰かに、あの子をどうにかしてほしかったのさ」


 だから、クエストを受けた私に、グリーザーを売りつけたってこと? 鉄鋼鹿が苦しんでいる理由を見せるために?


「そうさ。だから、私はこれ以上の報酬なんていらない」


 ……そっか。

 支払いにモーリュを求めたのは、本当に得られる報酬があまりに大きすぎると判断したからか。

 だとしても、疑問は残るけど。


「私達が、クエストを放棄する可能性だってあったのに、何でグリーザーを売ったの?」


「君達ならきっとやり遂げてくれると確信していたよ」


「……私達が、鉄鋼鹿を討伐する可能性もあったじゃない。それでも良かったの?」


 魔女は怪しげな微笑みのまま、こう言った。


「でも君らは、住処へおくり届けることを選んだ。そうだろう?」


 食えない人だなぁと思った。何を問いかけても、上手い具合にかわされている、というか。


 まぁ、でも。そういうことであれば、私は有難くグリーザーを使わせてもらうとしよう。


「『真実を見るグリーザー』、どうやら気に入ったみたいだね」


 私は頷く。

 これがあれば、決して度が狂うこともない。真実を見逃すこともない。私みたいな冒険者に、打って付けの魔法アイテムだ。そう思った。


「それならよかった。

 これからも頑張って」


 魔女は言う。

 途端に、売り場の景色が薄くなっていった。まるで霧が晴れるかのように、星降堂は薄く薄く、最後には霧散して、消えた。


「えっ……」


 今のは夢だったんだろうか。それとも、魔法?

 私は確かめるように、目元に触れる。


 そこには確かにグリーザーがあるし、視界は良好。星降堂での出来事は夢じゃない。


「ふふっ」


 何だかおかしくなって、私は小さく笑いをもらす。

 不思議な店の、不思議なアイテムを手に入れた。私の心は、ふわふわとした満足感でいっぱいになった。


 ✩.*˚

『真実を見るグリーザー』

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真実を見るグリーザー LeeArgent @LeeArgent

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