試験の緊張感

ハスノ アカツキ

試験の緊張感


 高校1年生の頃だ。

 学年全員が、とある検定試験を受けることになった。

 2級だったのだが「ぎりぎり合格できそう」という気楽な理由で勉強を一切しなかった。


 ちゃんと落ちた。


 しかも、僅か数点足らずで落ちた。


 ぎりぎり合格できそう、はぎりぎり不合格も有り得る実力だ。

 きちんと不合格になってしまった。


 ここで謙虚に勉強を始めれば良いのだが、何を思ったのか「ちまちま2級を受けるなんて面倒だな、一気に1級をとってやろう」と血迷った。

 あほである。


 ロングスリーパーな私だったが、試験当日までは睡眠時間を削り深夜まで猛勉強した。


 私なりに勉強はしたが、当日になっても合格できる気はしなかった。


 当然だが、1級はあまりに内容が難しかった。


 何ヶ月か猛勉強したくらいで合格できるようなレベルの試験ではない。


 試験会場には10人ほどしかいなかったと思う。


 私と同じく若い人もいたが、お年を召した方も数名いた。


 問題用紙が配られ、試験が始まった。


 難しい。


 解ける問題だけ探し出し解いていく。


 教室の中は緊張に包まれていた。


 そのとき。


「いやあ、やっぱり難しいですなあ」


 のんきな声が前の方から聞こえた。


 年配の男性だった。


「本当ですなあ」


 隣の年配の男性も答えた。


 いや、話しちゃだめだよ。


 試験監督はちらと2人を見たものの、注意はしなかった。


 気にせず2人は少しだけ話を続け、また試験に戻った。


 教室中に何だかほわんとした緩い空気が流れた。


 確かに難しい試験だし、不合格でも恥じることはない。


 気楽に解こう。


 そう思えた。


 あのとき、試験監督が注意していたら、そんな気持ちにはならなかったかもしれない。


 教室には緊張感が走った状態で試験が終了しただろう。


 面倒だったからか、はたまた優しさ故か。


 私の結果自体は勿論ぼろぼろで2割ほどしか正解できなかった。

 だが、高校生の平均点をわずかに上回っていた。


 不合格だったが、清々しい気持ちだった。


 もしかすると、話し始めた2人と試験監督のおかげかもしれない。


 そう思った。



 だが、良い子は決して試験中に話したりしてはいけない。

 即失格だし、周りの人の迷惑である。




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