「ええとめがねを外してください。本人確認しますので」👮‍♂️

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

「わかった。すぐ外そう」😎

「ジェームズさん、実にお似合いですよ」


「うん。これなら若く見えるな」


「何言っているんですか。ジェームズさんはまだ30前じゃないですか。本当に若いヒトがそんなこと言っていちゃダメですよ」


「アラサーを若いと言ってくれるのはありがたいが、微妙な年頃だからそろそろ年齢も気になるのさ」


「いや、充分いけてますって。カッコいいですよ」


「ありがとう。お世辞でもうれしい。それにしてもこれは新素材なのか? ずいぶんと軽いな。つけてても、全然違和感がない」


「おっしゃる通りです。ナノテクを生かした特殊素材で軽量かつ強度も鉄並みを実現しました」


「そいつはとんでもない性能だな。フィット感もバッチリだ。だが、私は任務上非常に激しい動きをしなければならない時もある。ちょっ試してもいいかな?」


「どうぞ、どうぞ」


「うむ」


ザッザッザッ、ダンッ、ダンッ!


 私は側転🤸‍♀️を3回転した後、2回連続バック宙を決めた。


パチパチパチパチ👏


「お見事です。相変わらずキレッキレの動きですね」


「いや、それよりも見事なのはコイツだ。コレだけ動いても落ちないし、外れない!」


「コイツのもう一つの売りがそれなんですよ。一旦キッチリとホールドしたらそう簡単には外れません。むしろ外すときにちょっとコツがいるくらいで」


カチッ!


「なるほど。わかった」


「加えて骨伝導の応用でコイツを装着していれば、ヘッドホン要らずでスマホが聴けます!」


「そいつは最高じゃないか! 気に入った! さっそく使わせてもらうよ。さすがはハイテク日本の職人芸だ。我が国情報部の支局を日本に開設したのは大正解だったな!」


「お褒めに預かり光栄です」


「では、行ってくる」


 私は米国の同業者スパイと直接接触する必要があった。万が一、尾行を巻く必要があるときに狭い日本の路地でも入れるように今日はミニローバーだ。


 待ち合わせ場所に行く途中ローカルの警察が検問を行なっていた。


 今の私の肩書きカバーは外交官ではなく新聞社の東京特派員だ。外交特権など使えるはずもない。ここは大人しく日本の官憲の指示に従うべきか。


「恐れ入りますが、運転免許証を拝見します。げっ、外人さんかぁ」


「大丈夫ですよ。多少は日本語話せますから。はい、免許証。国際運転免許証ですけれど」


 多少どころではない。優秀なスパイである私は日本語も流暢に話せる。だがここは日本だ。謙遜しておく方が相手に好印象を与える。


「ああ、助かります。拝見いたします」


「いったいなにがあったんですか?」


「隣の区で発砲事件があったんですよ」


「日本も物騒になりましたね」


「まったくです。目撃者によると、犯人は外国人らしいんですが」


「へえ、そうなんですか?」


「ええ。ところで、もう一つお願いがあるのですが」


「なんなりとどうぞ」


「ええとめがねを外して下さい。本人確認をします」

 

「❗️」


 ヘラヘラしている若い警察官だと思って油断していたがとんでもない! 一目で私の擬装を見破るとは。さては内閣情報室かそれとも公安か?


「いや、しかし」


「高かったんでしょうね。たしかに色ツヤもキレイですごくお似合いですから外したくないお気持ちもよく分かります。でも本官も職務ですからどうしてもその黒いのを外してもらわなけばなりません。ちょっとの間で良いですから」


 どうやらごまかせないようだ。仕方がない。その若い警官の指示に従うことにする。


「わかった。すぐ外そう」


カチッ!


 私は警官に言われた通りに外した。だが警官の様子がおかしい。口を開けたまま固まって動かない。


「どうかしましたか?」


「これは失礼いたしました。本官が外して見せて欲しかったのはその黒いめがね、サングラスでして、留め金とめがねは別に外さなくてよかったんですけど。その黒いカツラの」


 警察官は真っ赤な顔で笑いを堪えていた。


「なんだって!」






『ええ、留め金(と)を外して下さい』


 ではなく、


『ええと、眼鏡()を外して下さい』


 だったというのか! 


 私は恥ずかしさで頭がいっぱいでその後どうやって目的地までたどり着いたかも覚えていない。


 若ハゲサングラス😎だった頃の私の黒歴史であった。





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「ええとめがねを外してください。本人確認しますので」👮‍♂️ 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

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