カエルかメガネ

坂本 光陽

カエルのメガネ


 よわい27にして女性から告白された。生まれて初めての出来事だ。おまけに彼女は、愛くるしい笑顔、清楚なイメージ、上品なスレンダータイプ。僕の好みにドンピシャである。


 夢かと思ったが、まぎれもない現実である。一生に一度の幸運、それともモテ期の到来か? いまだに信じられない。彼女は僕にとって、まぎれもなく女神だった。


 日常生活は一変した。これまではモノトーンだったのに、周囲は鮮やかな色にあふれていた。人生バラ色というものが実際にあるとは思わなかった。


 だが、野球のボールがすべてを変えてしまった。公園の近くを歩いていると、小学生の打ったボールが飛んできて、僕の顔を直撃したのだ。


 軟式ボールなので、命にかかわるようなことはない。ただ、メガネフレームは真っ二つに折れてしまった。長年愛用してきたので、知らない間に経年劣化が進んでいたらしい。


 翌日のデート中、信じられないことが起こった。彼女からあっさりふられてしまったのだ。心当たりは全くない。出会ってすぐに、突然別れを切り出されたのだから。


 あなたは「蛙化かえるか現象」という言葉を知っているだろうか? 相手が好意を持ってくれた途端に恋愛感情が失せてしまうことをいう。そこから変化して、相手の嫌な面を見て幻滅げんめつしてしまう、という意味もあるらしい。


 友人から信じられない話を耳にした。僕が振られた理由は、メガネにあるというのだ。彼女が僕を好きになったきっかけは僕のメガネであり、そのメガネをかけているというだけで僕と付き合っていたらしい。


 そういえば、壊れてしまったメガネはという、少し変わったデザインだった。ブームが終わったのか、最近はめったに目にしない。一時期はアニメキャラがよくかけていたものだが。


 別れのデートの日、僕は予備のメガネをかけていた。逆ナイロールとは違うメガネを目にしたとたん、彼女は僕に幻滅したのだろう。


 僕は不思議な感覚にとらわれた。怒りよりも戸惑いの方が大きいが、妙な納得感もあった。彼女が僕みたいな奴に告白するなんて、本来ならありえない。おそらく僕は、逆ナイロールのメガネより存在感がなかったのだろう。


 つまり、彼女ののだ。


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