血戦の合図
和扇
第1話
「だから、あの作品の良い所は~」
かれこれ一時間。
生粋のオタクたる友人は作品愛を語り続けている。今どきチャック柄のシャツをズボンにインして眼鏡を掛けフヒヒデュフフと笑う、絶滅危惧種だ。
俺もその作品は好きなんだが、流石にここまでの熱は持っていない。変に好きだと言うべきじゃ無かった、ポジティブ方面の地雷ってのもあるんだなぁ。
「聞いてるでござるか?」
「ああ、聞いてるよ。主人公はやっぱりカッコいいよな」
「そうでござるな~」
はははと笑い合う。
まあ、俺もこの作品好きだからな。別に話をするのが嫌なんじゃないんだ。程度の問題さ、程度の。ところでコイツの言動、二十年は前のオタクなんだよなぁ。タイムスリップしてきたのだろうか。
「で、ヒロイン論争が終わらないんだよな」
「三人、誰が主人公と結ばれるんでござろうか……ああ、誰がくっついても荒れる気がする!」
「あー、そりゃ確かに。某国民的RPGの嫁論争みたいになりそうだ」
「圧倒的同意!」
俺の例えを肯定して、きらん、と友人は眼鏡を光らせる。
コイツの眼鏡、こういう時に毎度光ってる気がするんだが何かタネでも有るんかね……?それとも止めどなく湧くオタクパワーで光ってるのか?
「デュフフ、それゆえに二次創作が捗るというもの。多くの神たちが作品を作ってくれるのでござるぅ……感謝ぁ……」
コイツの言う神とは、同人作家や絵師の事。原作の作者は何て呼ぶんだ、と聞いてみたら、絶対神だという。この世に神、溢れる程に存在するみたいだな。
「ただ拙者、一つだけ不満があるのでござる」
「珍しいな、この作品を愛してるお前が」
「勿論愛しているでござる。だからこそ、気になるのですぞ」
腕を組んで胸を張る。やはり眼鏡がきらんと光った。
「で、何を気にしてるんだ?」
「うむ、ミヨ殿はめがねを外した方が可愛いのでござる。作中では一度しかその機会が無く、大変残念で―――」
「あ”?今、なんつった?」
「ぶぎゅる」
この馬鹿クソ野郎の頬を右手で挟み込むようにして、潰す。ただでさえ見るに堪えない顔が更に不細工になってやがる。
だがそんな事はどうでもいい。
コイツは今、決して許されない事を言ったのだ。万死に値する、いや俺が殺す。
「めがねを外した方がいい、だとゥ?てめえのその眼鏡、割ってやろうかァ?」
「ちょ、お、俺氏、落ち着くでござるっ」
「ぶっ殺す」
「止めるでござる、ヒイィ……!に、逃げるでござるっ!」
さあ、血で血を洗う戦の、始まりだ。
待てや、ゴルアァァァァッ!!!!
血戦の合図 和扇 @wasen
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