ネオンの蛇足

 タイ君が好き。

 そう呟けばお兄ちゃんが「はいはい。あんまりおしつけ過ぎるなよ」と苦言をくれる。

 小学校一年生の時に出会ったけど、校区が違って会いやすい相手ではなかった。タイ君はどこかの私学に電車通学してたらしいから会いようもないんだけど。

 会えば、笑って「ネオンちゃん」と呼んでくれるタイ君はなんというか、うん。美少女だった。

 私もお兄ちゃんいての長女だから「かわいい。かわいい」って育てられたんだけど、タイ君は間違いなく美少女だった。

 学校ではそつなく友人はいそうだけど、それほど深い親友はいそうにないのは美少女すぎて引かれているんじゃないかと邪推している。

 タイ君のお姉さんも同系統美少女でお兄ちゃんが見惚れていた。お兄ちゃんが相手されるわけないじゃんと醒めた目で兄を見つめた思い出である。

 つまり、タイ君はお姉さんがそれなので無自覚なのである。しっかりお姉さんにどこかおっとりぎみのタイ君だしね。

 ここはネオンがしっかりすべきだよねと心に決めた。

 見かけた猫に案内されてタイ君に会えた日は嬉しくて。手を繋いでお家を目指した。

 はじめのうちは道を聞かれていたけれど、いつしか聞かれることはなくなった。タイ君の手を離さないでいればおうちに帰れた。

 タイ君はずっとネオンの話を聞いてくれて言葉は少ないけれど、いけないことは叱ってくれるお兄ちゃん。

 なんだかパパやお兄ちゃんに注意されるよりなんとかしないといけないかなと思えたから。

 美少女に心細げに微笑まれて「心配だから」って言われたら、「うん。気をつけるね!」しか返せなくなるの。

 お兄ちゃんの友達のお兄ちゃんがタイ君の親戚だったから会える可能性は増やせた。

 お兄ちゃんに「ついてくるのはいいけど、勝手に動くなよ」と邪険にされてもタイ君に会いにいくのはわくわくした。「え。今日は一緒じゃないけど? あーごめんね」とみーお兄ちゃんに謝られることも多かった。

 そのままみーお兄ちゃんの弟たちも交えて遊ぶことも多かったけど、コレ妹も連れてくればいいんじゃないとよく考えたものである。(うちの妹とみーお兄ちゃんの弟たちは同じ年)

 実際にお兄ちゃんに言ったところ、「僕の許容量越えてるからやめろ」と言われた。我が兄ながらキャパが小さい。

 そんな感じでタイ君には月に一度会えたらラッキーな感じで気がつけば高校生になっていた。

 小中高、結局同じ学校に通うことはなかった。

 きっとあんまりの美少女にモテるんじゃないかと心配になってタイ君と同じ学校に通っている体操クラブの友達に情報を流させもした。

「ネオンくんの知り合いって聞かれたんだけど関係喋って大丈夫だよね? どっちにしろ、親からバレるルートだからね!?」

 友達経由でタイ君との時間を増やすことに成功したのは人生の快挙。

 でも、もっと時間はほしいから。

「ネオンはタイ君が好き」

 そう伝えた。

「ん。おれもネオン好きだよ」

 さらりと返ってきて、あんまりにもさらりで。嬉しいより逆に不安になった。

「ネオンは妹じゃないからね?」

 不思議そうにタイ君が髪を揺らす。タイ君の髪はサラサラである。

「なんでそうなる?」

 うっくぅ!

 タイ君天然さんだよね!

「だーかーらー! タイ君はネオンのこと恋人として考えられる好きですか?」

 また、さらりと髪が揺れる。

「だって、ネオンはおれのお嫁さんにくるんだろう? 妹とは夫婦になれないよ?」

 ああああ。

 いつのネオンの言葉を覚えていてくれたのぉおおおお!

「ネオン、どーしたの?」

 あれ?

 なんですか?

 タイ君にとってはすでにネオンは彼女だったんですか?

 それは、その、言って欲しいと思うのですが、え?

 なに?

 ネオンの方が酷かったの?

 え?

「タイ君のばかぁ」

 思わず殴ったネオンをタイ君はにこにこ見ていて感情がぐるぐるするのにタイ君は綺麗ににこにこであー。もうネオンを見ちゃダメですと抱きついたんですよ。ええ。タイ君の匂いも好きです。




 タイ君に不安になるのは馬鹿らしい気もしますがちゃんとね。

 だからこそちゃんとね。

 好きを確認していきたいのです。

 絶対にネオンはタイ君を離したくないし、離さないで欲しいのだから。

「ネオンは欲張りなんですよ」

「え? クレープひとつ全部食べる?」

「タイ君がそれはメインで。ひとくちちょうだい」

 甘いものが好きなのはタイ君ですからね。

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デートタイム 金谷さとる @Tomcat

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