ユキと由紀恵の千羽鶴【1069文字】

三日月未来

ユキと由紀恵の千羽鶴

 少女は、来る日も来る日も鶴を折った。

色紙を集めては、短冊を作り竹の葉に飾る。


「ユキ、今日も色紙で何をしているの」

「お母さん、今は秘密よ」




 ユキは十六歳になったばかりの女子高生で、近くの女学園に通っている。


「ユキ、学校は慣れた」

「お母さんと同じ学校だからいい人ばかり」


「そう、でも制服の色もデザインも、お母さんの時代とは違うわ」

「学校も色々あって、時代の流れには逆らえないのね」




 母は、三十六歳だった。

娘のユキは、母が二十歳の時に生まれた。

ユキは幼児の時から身体が弱く、母は色々な所から情報を集めてユキの健康を願った。


 やがて、ユキの顔色から青白さが消えて行った。


「お母さん、このよもぎ茶を飲み始めてから、よくわからないけど、いいみたい」

「そう、ユキに合って良かったわ」


「お母さん、今日も、これからお仕事なの」

「そうよ、今日は仕事で遅くなるから冷蔵庫の食べ物を温めて食べてね」


「分かったわ」


 母の由紀恵は、身支度を整えて玄関に向かった。

二人は、玄関で別れた。

ステンレス扉の乾いた金属音を残し、母は扉の向こう側に消えた。

そして、大きな地鳴りが部屋を包み込み灯りが消えた。


 ユキは、暗い自室に戻り、千羽鶴を折った。

「・・・・・・」


 母の由紀恵は、あの大地震から戻っていない。




 ユキは、病院の白い建物の前で呼吸を整える。

白衣の医師と看護師が廊下を行き交う。


 由紀恵は、四階の四人部屋にいた。

ユキは、病室の窓際の空調横に千羽鶴をそっと置く。

木彫作りのロッカーと窓側の棚がホテルのようにユキには見えた。


 由紀恵は、娘の千羽鶴を見て微笑んでいる。

由紀恵はユキの白い手を両手で挟んで言った。


「お母さん、長生きするから大丈夫と信じているわ」


 由紀恵は、何度も娘に言った。


 主治医が、ユキを見ながら首を振る。

ユキの視界から色が消えて行った。




 母由紀恵の匂いが残る部屋に戻ったユキは狂ったように泣き出した。

抑えていた感情が溢れ出して弾けた。


 透明な雫がユキの頬を伝わり床に落ちた。

ユキは、病院から処方された精神安定剤を飲み心を鎮めようとする。


 眠りに落ちて行く中で、由紀恵がユキに声を掛ける。


「ユキ、もう我慢しなくていいのよ。私がもっと早く戻っていたら良かったのに」




 ユキは、夢の中で、金色の光に包まれていた。

ユキは、夢の中と思っていた。


 ユキが真下を覗くとユキ自身の顔が見えた。

母の由紀恵が覆い被さり号泣している。


 ユキは金色の光の中を進んで行った。


「ユキ、おまえの神さまじゃ、母との別れは済んだか。また会えるから、待っていれば良いのじゃよ」


「神さまですか」

「そうじゃよ、おまえの神さまじゃ」


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