Black and White
鈴木怜
Black and White
と言われて、何を想像するだろう。
警察? チェス? 囲碁? きっとどれも正しい。
ただ、今僕が身にまとっているものも忘れてはいけないと思うのだ。
「……メイド服、ねえ」
「ほーら先輩、笑顔笑顔。そんなんじゃ誰も寄り付きませんよ?」
高校、演劇部の部室。
なぜか僕は、メイド服を着ている。
顔がこわばっているらしい。この部活の後輩が僕に対して馴れ馴れしい声で煽ってくる。
パソコンの前でカタカタしながら。
「いやそりゃそうだよ……男だもん僕! なんでメイド服着させられてんのさ!?」
「わたしが台本書き上げるためなら、なーんでもやってくれるって言ってくれましたよね?」
「言ったよ言っちゃったよそれは事実だよでもさあ! 色々となんで!?」
ソプラノボイスがけらけらと笑う。後輩の声だ。
僕なんかよりもよっぽどメイド服が似合うだろう。
「前々から思ってたんですよぉ。似合うよな……って」
「そんなこと思わなくていいよ!?」
相当変わってる子なのは否定しない。
こんな子だからか、個性的な台本が上がってくるのだ。
「ところで先輩、今の先輩はメイドな訳ですよ」
「……不本意だけどね」
「思いませんか? ご主人様に向かってなんだその口の効き方はー、って」
「……ほう、ご主人様は相当調子に乗っておられるご様子。折檻が必要ですね」
「うはー! 口悪い女装メイドとか性癖の煮こごりかー!?」
「誰のせいかお分かりでしょうか?」
「わたしですね!」
開き直られてしまった。
「なのでメイドの本分を果たしてもらいますよ!」
何故だろう。すごく嫌な予感がする。
「紅茶が飲みたいです! 淹れてください! どうしようもなければ買ってきちゃってもいいです」
「水がないんだけど!?」
選択肢が一つしかないものを遠回しに強制しないでほしい。
着替えてしまいたかったが、それでは後輩の手は止まってしまうだろう。
意を決して、僕は高校の中を駆け出した。
……この日、高校に、メイドが出没したとしてちょっと話題になった。
後日、出来上がった台本には、僕が着るのが前提じゃないかと突っ込みたくなるようなメイドのキャラクターがいた。勘弁してほしい。
Black and White 鈴木怜 @Day_of_Pleasure
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます