お空には名残雪。とある美術部が奏でる色彩のダンス。

大創 淳

第七回 お題は「色」


 ――このお題を知った時には、お空はもう茜色になっていた。



 このお空の色も、写真で再現するなら三つの色から成り立つ。イエロー、マゼンタ、シアンの三色。そのように、この度のお題は、とてもシンプルな内容と思えたの……



 そう。


 その時までは。



 翌日のことだ。もっと奥深いものだと、思い知らされることになった。それは絵。絵画に携わって、その描く人が見た色は、きっと一度きりの色だと思える程の深み……


 今、私はアトリエにいる。


 学園の敷地内、芸術棟の二階の一室に、このアトリエはある。同じ二階に私の所属する写真部があるの。私の名は卜部うらべそら。そしてこのアトリエの主は、美術部に所属している女の子。一人称は「僕」だけど、ちゃんとした女の子。それが証拠に、このアトリエの中では一糸まとわぬヌードだから、一目瞭然ということ。


 私はモデルで、その所謂ボクッ娘は描く人で……


 彼女の名は星野ほしの葉月はづき。そしてふと思うの、私の知っている星野という名字の女の子は三人もいる。三人ともボクッ娘だからもしかして、そう言う系統なのだろうか? ふとそう思っていると、ハラリと見える雪。三月のお空にも雪、名残雪……ロマンは深まる。


 壁はマジックミラーだから、まるでお外にいるような感覚。しかもヌード。少し紅潮した色になっている。肌の色は、周りの影響や内面の影響にも染まりやすいと思えた。


 そんな私を、その瞬間でさえも、葉月ちゃんは描いている。


 私の空想の色と、彼女から見る私の色は、きっと違う色。私を描くその絵画は、何らかのコンクール用で、もうモデルと描く人の関係になれる程、私たちは仲良くなれた。


 この室内では身も心も……


 私はポニーテールを解いている。彼女も彼女でお下げも、丸い眼鏡も外している。その眼鏡は度のない伊達眼鏡だったの。いつもは隠している素の可愛らしいお顔を……


 それに彼女もヌード。


 それは、描く時の彼女のスタイル……


 何でも、この場所では、いつもヌードになっているそうだ。


 なので、描く人もモデルも共に裸の付き合い。壁の向こうまでもが見える、まるで天空の城のような何処までも広がる世界が、そうさせているのだろうか? 気持ち良い程の開放感。肌寒いと思える三月でも適温。それは何故か? 彼女は、この様に言ったの。


「描きやすいから」と、その一言に凝縮されていた。


 確かにその通りなの。肌に付着している絵具が、汚れではなく主張を持っている。肌で感じる色。ある意味ではボディーペインティングのような主張を含んでいるの……


 イエロー、マゼンタ、シアン……


 絵具なら赤や青や黄色、そのような原色ではなく、もっと深い色……


 きっと奇跡。混ざり合って世界で一つの色も誕生していたのかもしれない。だとしたなら、世界で一枚の絵画。それは紛れもなく彼女が創り上げたオリジナル色の集大成。



 そうだとしても……


 もしこの作品を写真に収めるのなら、プリンター内ではイエロー、マゼンタ、シアンの三原色の度合いで補正される。その基礎は同じ。時代は進んでも基礎は変わらない。



 昔は、その三原色のフィルターを用いて、その組み合わせによって、写真の色補正をしていた。ネガから光を当てて印画紙に焼き付けるという原理。印画紙は薬品によって現像されてゆく。現像液から漂白液……その工程はまるで魔法のよう。写真という形で、


 液体の中を走ってくる。


 乾燥を得て、巻き取られる印画紙のロール。


 それを裁断機で切り分ける。かなり大掛かりな機械を用いていたそうなの、昔は。


 そんなことが脳内でダンスしているとね、


「ホント、まるで魔法ね、また詳しく教えてね、空ちゃん」


 と、ニッコリ笑顔で葉月ちゃんが言った。どうも心の声がジャジャ漏れだったの。


 雪が止んで春を迎えても、私たちの関係は続いてゆく。季節の色を声ながら……


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お空には名残雪。とある美術部が奏でる色彩のダンス。 大創 淳 @jun-0824

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