【KAC20247】最後の、色

武江成緒

最後の、色




 胸のおくにきついてるのは、まっ黒な色。

 生み育ててくれた大事な人たちが、砂色へと呑みこまれて、響きわたるはただ真っ黒な笑い声。





 そこから先はただ真っ赤。


 怒り、悲しみ、悔しさ、寂しさ。真っ赤に塗られてうごめきからまる、そんな思いたち。


 それを切り裂く刃をいつしか右手に握りしめて、いまわしい砂色時計のひとつを打ち砕いたその一太刀で、やはり真っ黒な切り口をひらく。


 カーラの先にあるものは、時間カーラの果てしない旅路。




 その真っ黒な永劫の旅も、たちのぼる赤が立ちこめて、息がつまりそうなくらいの朱に染まったその果ては。


 ただ広がる黄昏色の大砂漠。

 時間の終焉、世界の終局。


 そこで掘り出した白く、冷たく、四角四面な石の箱。

 その中から出てきたのは、同じように白く冷たく。

 だけどかすかに赤みのさした小さな手。


 それをとって、引いて返した黒い廻廊は、以前よりすこし明るくて、夜空みたいな藍と紫がほのかに入り混じっていて。

 行く手には立ち消えそうな銀の星が、それでも確かにさし招いていて。






 それからは千景万色。

 繰り広げられる色とりどりの旅路は、それでも平坦とはゆかなくて。


 目指す砂色の渦をさして辿りつこうと追いつめるも、笹色の爪に傷つき、こわれ、黒い奈落へちかけたのを繋ぎとめたのは、すこしだけ赤みのました白い手で。


 手をひかれて、世界の万色にかがやく樹の枝を通り。


 永生のあかい焔の翼をあびてがえり、暖かい色の手をまたとって。






 それからまた、万色の旅を踏み越えた果てに。


 目の前では、あの砂色が切り裂かれて。

 悲鳴をあげつつ散り消えてゆく。


 これまで歩んだすべての色が、すべての時空が、収束してひとつになる。






 すべての色が混ざれば、それは黒くなる。

 だけど混ざるのがあらゆる光だったなら、それは白い輝きになる。


 薄れれば、そこに包まれたすべての色がふたたび明らかになってゆくはずだけれど。


 いまはただ、この白い出口へと。

 手と手を取って、あたらしい歩みをはじめる。

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