第2章:グランバース魔法学院
セリオステンの惨劇から数週間が経ち、リーリアはようやくグリマルディアの地に降り立った。
疲れ切った身体を引きずるようにして、少女は目的地を目指す。
「グランバース魔法学院...フランシス先生の言っていた、私の庇護者がいる場所...」
辿り着いたのは、緑濃い森に囲まれた、威風堂々とした佇まいの建物だった。
重厚な石造りの門をくぐると、そこには知識の香りが漂う、壮麗な空間が広がっていた。
「こんなところで、私は...」
圧倒されながらも、リーリアは恐る恐る一歩を踏み出す。
「君がリーリアかい?」
背後から聞こえた声に、少女は飛び上がるようにして振り返った。
目の前に立つのは、長い白髭を蓄えた、眼鏡をかけた紳士だった。
その口元には、優しい微笑みが浮かんでいる。
「は、はい...あの、私はフランシス先生に...」
「フランシスから聞いているよ。君のことは全て」
紳士は静かに頷くと、リーリアの肩に手を置いた。
「私はアーサー=ギルモア=サリヴァン。この魔法学院の学院長を務めている。そして、君の庇護者でもある。遥々よくたどり着いたね。君のことを待っていたよ。」
「サリヴァン学院長...」
リーリアの瞳が、わずかに潤む。
「さあ、まずは学院内を案内しよう。ここはこれから、君の新しい家になるのだから」
サリヴァンはそう言って、リーリアを建物の中へと導いた。
廊下を歩きながら、彼は魔法学院について語り始める。
「グランバースは、七王国で最も歴史ある魔法学院じゃ。最高位の魔法使いを輩出してきた、由緒正しき場所でもあるのじゃ。」
サリヴァンの言葉に、リーリアは真剣に耳を傾ける。
「ここで学ぶ生徒たちは、皆、それぞれの理由と目的を持っている。君もまた、自分だけの道を見つけていくことになるだろう」
「自分だけの、道...」
リーリアは自分の手を見つめながら、呟いた。
やがて、二人は広大な図書室へとたどり着いた。
天井まで届く程の書架が、部屋中に整然と並んでいる。
「この図書室には、古今東西のあらゆる魔法の書物が収められている。君の学びの手助けになるはずじゃ」
サリヴァンが手を広げると、無数の本が宙に浮かび上がり、リーリアの周りを舞い始めた。
「すごい...!」
思わず声を上げるリーリアに、サリヴァンは微笑む。
「魔法は、正しく使えば、人々を助け、世界を変える力となる。リーリア、君にはその資質がある」
「私に...?」
「フランシスが、君を信じていた。だから、私も信じよう。君なら、必ずやこの混沌とした時代を導く光となってくれる」
サリヴァンの言葉に、リーリアの心に再び希望が灯る。
失ってしまった大切なものの代わりに、新しい使命を見出そうとしているのかもしれない。
「サリヴァン学院長、私...精一杯頑張ります。フランシス先生のためにも、自分自身のためにも」
リーリアが力強く宣言すると、サリヴァンは満足そうに頷いた。
こうして、リーリアのグランバース魔法学院での新しい生活が始まった。
彼女は他の生徒たちと机を並べ、熱心に魔法を学んでいった。
授業の合間には、サリヴァンのもとを訪れ、彼から特別な指導を受ける。
リーリアの魔法の才能は、日に日に開花していった。
「見事じゃ、リーリア。その調子じゃ」
サリヴァンは、呪文を唱えるリーリアの姿を見守りながら、頷く。
「でも、魔法の力だけでは足りない。心の強さと、正義を貫く勇気が必要なのじゃ」
「心の強さと、正義の勇気...」
リーリアは呪文を止め、サリヴァンを見つめた。
「では、次はこの水魔法を試してみよう」
サリヴァンが古びた杖を振りながら、呪文を詠唱する。
<<深淵より呼び覚まされし水よ、流れとなって敵を呑み込め。悠久の流れに身を任せ、抗うことなく深海へと沈め>>
間もなく目の前に巨大な水流 ーいや水盤と呼ぶべきだろうかー が現れた。
「<<深淵の流転>>という上級魔法じゃ。水を自在に操り、敵を飲み込む強力な魔法である」リーリアは息を呑み、水盤に近づいた。
少女は両手を水面に翳し、静かに目を閉じる。
心の中で、フランシスの教えを思い起こしながら、ゆっくりと詠唱を始めた。
<<深淵より呼び覚まされし水よ、流れとなって敵を呑み込め。悠久の流れに身を任せ、抗うことなく深海へと沈め...!>>
リーリアの声に呼応するように、水盤の水が渦巻き始める。
次第に水流は速度を増し、水盤の中央で巨大な水柱となって立ち上った。
「そのまま、リーリア。意識を水流に集中して」
サリヴァンの言葉に導かれ、リーリアは渾身の力を込めて詠唱を続ける。
やがて、水柱はリーリアの意のままに形を変え、まるで生き物のように蠢き始めた。
水流はリーリアの周囲を取り巻き、しなやかに舞踊るように宙を舞う。
「深淵の流転...!」
サリヴァンが感嘆の声を上げる中、リーリアは最後まで詠唱を完遂した。
「この世界は今、混沌に陥ろうとしている。サングリンドールの王が、悪しき力に魅入られ、守護聖石を我が物にしようとしているのじゃ」
サリヴァンの表情が、一瞬で翳る。
「守護聖石を悪用されれば、世界は闇に包まれてしまう。それを防ぐためには、君の力が必要じゃ」
リーリアは目を見開き、自分の胸に手を当てた。
セリオステンの惨劇を思い出し、心に燃える復讐の炎。
そして、フランシスから託された使命。
「サリヴァン学院長、私はこの力を...世界を守るために使います。サングリンドールの悪行を、必ず止めてみせます」
リーリアの瞳に、固い決意の色が宿る。
サリヴァンもまた、それを見逃さなかった。
「その覚悟、嬉しく思う。君なら、きっと成し遂げられる。私は全力で君をサポートしよう」
師弟の絆を確かめ合うように、二人は固く手を握り合った。
リーリアの戦いは、これからが本番なのだ。
七王国の危機に立ち向かうため、そして愛する者たちの仇を討つために。
少女の旅は、新たなステージへと進んでいく。
七王国物語 - 聖石の謎と死の教団 @akihitodesu
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