君は限りなくブルー
つばきとよたろう
第1話
始まりは何であれ。行き着く先は、いつも同じだ。ぼくは階段を上って、幻を見たくらいに目を見開いた。
屋上の君は、空に溶け込んだように踊った。天地が逆さになって混ざり合ってしまいそうなほど、景色が激しく歪んだ。青い空、白い雲、灰色のコンクリート、鮮やかな樹木の緑が目が痛いくらいに展開していった。この世界は一瞬、君だけの物かと強く錯覚させられた。透明な空気に晒すように、手を広げて回る。風に乗って揺れる黒い髪や、微かな息遣いが聞こえてくる。白くて細い足を軸にして、危なげなく回転する。昼休みという限られた時間で、君はとびっきりの自由を得た。何でもない事までもが、眩しいほど輝いていると思った。太陽の光が今日が特別な一日みたいに、君を祝福して降り注いでいた。校舎の高い窓ガラスがキラリと光った。影はいつもより黒く時計の針が刻々と時を刻むくらいに、はっきりと日向と日陰の明暗を分けていた。目に見えないつむじ風が起こって、青々とした木の葉を一枚だけ連れて吹き去った。背中をそっと押され、足がふわりと浮いた気がした。君の少年のように凛とした横顔を、何万回見ただろう。ぼくの記憶容量はいつもぎりぎりだった。君の時間はとても短く感じる。ぼくは、君の疑問に何一つ答えることはできない。
「空はなぜ青いの?」
恐ろしいほどに青い空を目の前にして、背筋を真っ直ぐに伸ばした。胸一杯の透明な空気を吸い込んでいても、この気持ちは消えることがなかった。
「雲が白いのはなぜ?」
頭上に浮かぶ巨大な雲に圧倒されながら、音もなく風に流されていくのをじっと見ていた。ちっぽけな存在のぼくは、自然の壮大さにただたじろいだ。その中できらめくものを見つけたとしたならば、ぼくは息ができなくなった。光は粒子と波の性質を同時に持っている。遠くの景色は灰色がかって霞んでいても、君とは何の干渉も持たない。ぼくは、ただ君の有りのままの姿をこの目に焼き付けた。
君は限りなくブルー つばきとよたろう @tubaki10
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