ある教授の実験 その二
ろくろわ
色に関する仮説と証明の文字起こし
『それでは今回の実験に関する仮説を文字に起こし、皆様と共有したいと思います。今回の実験は
デジタル機器の画面に上記の文字を入力すると、教授は助手に今回の実験の説明を始めた。
「いいかい、宗谷君。今回の実験では色が持つイメージは覆る事について、仮説をたて実験をします。一般的に色にはイメージがありますよね?黒色なら高級なイメージ。赤色は情熱的なイメージで青色は冷たいや清潔なイメージ。多少のズレがあっても大まかなイメージは集約していきます」
「確かにそうですね教授。それでイメージが覆るとはいったいどういう事なのでしょうか?」
「それはだね。これだよこれ」
そう言うと教授は助手の前に三枚の写真を見せた。
「これは?」
「ただの人の顔を写した写真だよ。これを見て、本日は宗谷君に色のイメージを聞きたいと思います」
「色のイメージですか?」
「そうですよ。ではまず、宗谷君の思う黒のイメージは何ですか?」
「やはり高級とか落ち着いているとかですね」
「そうですよね。ではこの写真の女性を見てください」
そう言うと教授は普通の女性の写真を見せた。
「この写真に写る女性は、自分が有利に働くように操作する腹の黒い女性なのです。さて、今黒のイメージはどうなりましたか?」
「何だかそれを聞くと、黒が卑怯とか悪いってイメージになりました」
「それでは次です。赤色はどんなイメージですか?」
「このイメージも情熱的とか熱いとかですね」
「そうですよね。ではこの写真を見てください」
そう言うと教授は、耳まで赤く染めた男の子の写真を見せた。
「この写真の男の子は恋人からキスをされた直後、顔が赤くなった時のものです。では赤色のイメージはどうですか?」
「そうですね、情熱的とは少し違う、照れとか愛情とかそのようなイメージになりした」
「では、次で最後です。青色はどんなイメージがありますか?」
「これは爽やかとか清んでいるとかのイメージがあります」
「そうですか。それでは残る一枚の写真を見てください」
そう言いながら教授は最後に写る顔色の青い男性の写真を見せた。
「この写真の男性は恐怖を体験し、全身の血の気が引いた時の写真です。今、青色のイメージはどうなりましたか?」
「なんだか爽やかな印象とはかけ離れてしまいました。冷たいとかそんなイメージです」
「ありがとうございます。どうです?色の持っているイメージが覆ったのでは無いだろうか」
「これは一体何故ですか?晃教授」
「そうだね。この結果も人間行動学に基づくと言えるだろう。説明の無い、ただの色にはイメージがついている。だが人はそれに説明や状況が付くと色のイメージが変わってしまうのだよ」
「だからですか?最初に色を聞いて、その後に写真による状況説明を行ったのは?」
「色のイメージが変わるであろうと仮説をたて、先程実証されたと言えるだろう」、
「成る程。実験は上手くいったんですね!」
「そうですね。でも実験はまだ続いているのだよ、宗谷君」
「まだ続いている?どういう事ですか?」
そう投げ掛けてくる宗谷君に対して、晃教授はそっと助手の宗谷君の後ろに回り、ぎゅっとその身体を抱き締め、そして後ろから宗谷君の耳元に囁いた。
「そう。実験はまだ続いているのだよ」
晃教授のあつい胸の体温が宗谷君の背中に伝わり、囁く声に乗った吐息が耳を
宗谷君はゾクッとしてその身を震わせた。胸はドキドキして心なしか顔色も変わったようだ。
「晃教授!何をするんですか?」
「宗谷君。これがもう1つの実験だよ」
「どういう事ですか?」
「宗谷君、今の君の顔色は何色になっているのかな?」
晃教授の問いにまだドキドキしている宗谷君は上手く答えることができないでいた。そんな宗谷君に晃教授は講義を続けた。
「今回の話を前回の『はなさないで』についての人間行動学の実験を読んでいる読者は、私が後ろから抱き締めた宗谷君の顔色が勝手に赤くなったと想像していると思われる。『顔色も変わった』としか伝えていないはずなのにね」
「どうして顔色が赤いと想像してしまうんですか」
「それはね、人は経験を引きずり思い込みによる行動をすると言う事からだよ。晃教授という名前と『人間行動学の実験』と言う説明だけで、読み手は勝手に前回、妹が行った実験の続きだと思って話を読み進めていたのさ。女性の晃教授が宗谷君の後ろから抱きつき、それに宗谷君が照れたからと勝手に思い込んだからだよ」
「どうして僕が晃教授に抱き締められて、照れないといけないんですか?それに晃教授が女性だなんてどこにも書いてないじゃないですか?前回の実験は晃教授の妹さんの晃
「その通り。今回の実験は前回の実験を行った晃真冬の兄である晃龍彦の実験である。しかし前回の続きだと思っている読者にはソコが見えないのさ。それにもう一つ。抱き締められた相手が厚い胸を持つ男性だと状況が変わると、宗谷君のゾクッとして変わった顔色の色も変わっているはずだよ」
「そんなまさか」
「そう。今回の実験も読み手の方が『宗谷君の顔色が照れている赤色から、身の危険を感じ血の気の引いた青色に変わった』とコメントがあるまでは、色々と賛否があるだろうから、この結果を皆にはまだ話さないでね」
晃龍彦教授は宗谷君を抱き締めた太い腕をゆっくり離し、自分の唇に人差し指をそっと添えて、晃真冬教授と同じようにフフッと笑みを浮かべたのだった。
了
ある教授の実験 その二 ろくろわ @sakiyomiroku
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