第38話 足の向く場所
夏休みも残り三日となった朝、スマホにメッセージが届く。確認すると柳さんの死を知った川崎さんと氷室くんからのグループチャットでの会話だった。二人は御見送りとして何か最後にしてあげようと計画を立てるための話し合いを企てている。
加わりたい気持ちは山々だったが僕には何よりも優先してやらなくてはいけないことがあった。だから今後はあまり連絡が返せないこと、それから僕の分までよろしくとメッセージを送る。いきなりの発言に戸惑いを見せる返信があったが僕はこれ以上文字盤に手を走らせることはなくスマホの電源を切った。
買い出しとリサーチに二日を要し夏休みは最終日を迎える。前夜はなかなか寝付けず心はざわめいていた。課題を終わらせることなく最終日を迎えたのは初めてだ。目が覚めると夕日は山へと隠れ始め残りわずかの時間しか残されていなかった。しかし課題の心配も二学期の憂いも何も心配はいらない。僕はただ一つの物事を完遂することだけが絶対命令であるため他のことは何も気掛かりになり得ない。悠長に日が完全に落ちるのを待ち僕は行動を開始する。あらかじめ用意した物を確認しながらリュックへと詰め込み準備を終えると背負い自室の電気を消した。
「いってきます」
玄関で小さくつぶやいてから家を出る。まず初めに向かったのはこの夏三度目となる二人で花火をみた思い出の場所だった。開けた場所にたどり着くとリュックを下ろし、中から市販の打ち上げ花火を取り出す。一人きりだったとしても最後にもう一度この場所で花火が見たかった。ライターをゆっくりと導火線へと近づけていき火をつける。ジリジリと燃え始めた線は徐々に短くなっていき、心の中でカウントダウンを唱えた。
導火線は消え去り立てられていた筒から勢いよく花火玉が飛び出すと空に大きな花を咲かせた。あの日見た花火に比べれば音も大きさも見劣りしてしまうが今の僕にはこれくらいが丁度お似合いのような気もする。天国にいる彼女のもとまで届いたかなと花火が消えてしまった夜空をしばらくの間見上げる。
これから行おうとしていることが本当に正しいことなのかどうかはわからない。それでもここ数日ずっと感情に駆り立てられるような衝動が身体中を巡って仕方なかった。柳さんともう一度面と向かって会うためにも僕はやらねばならない。
「もう少しだけ待っていて」
柳さんに語りけるように呟きを残し、花火筒を取り出してもなお重量感のあるリュックを背負い直すと思い出の地を名残惜しくも後にした。ここで家に帰れば夏の切なくも綺麗な思い出になったかもしれないが引き返す選択など端から持ち合わせていない。今一度気を引き締め直すと二日をかけて徹底的に調べた場所へと足を進めた。背負う物の重みが歩くにつれて増していくような気がしたがもう何も気にならなかった。非力な自分、それから彼女を不幸のドン底に陥れた罪人に憎悪は焼き尽くすような熱を帯びて溢れだす。感情に駆られる化身となり終焉へ向かう様はいつかの僕が踏み出さなければならない姿のだと今になって気がついた。
アンセルフィッシュな愛 ふかちん @fukachin
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