KAC20247 あなたの色に染められて
久遠 れんり
彼女は変わった
彼女はクラスの片隅で、静かに本を読む人だった。
そしてそれは、僕も同じ。
学校帰りに校門前で、チラシを受け取る。
「禁止されているはずなのに珍しい」
そう思っていると、案の定。先生が走ってきた。
「さっきのチラシ。何だったの?」
「えっああ。冒険者ギルドだって」
『強き者を求む。高校生でも大丈夫。熱き若人達よ。君の力で地球を守れ』
そんな文言が踊っている。
だが、そんなチラシの片隅に、注意書きが一ミリ当たり二文字くらいで書かれている。
『ギルドに所属する冒険者は個人事業主であり、ギルドは身体並び財産その一切について責任を負いません。ダンジョンへの入退管理、その中で得られた、素材等、売買についてはギルドを通す限りにおいて、責任をもち、それを執り行います』
「すごい、いい加減」
俺はそう言いながら、ふと彼女と二人。目を合わせ、その唇が……
「ねえ。ねえってば」
「はっ?」
しまった。妄想の闇に沈んでいたようだ。
右目が疼く。
「山瀬君も興味あるの?」
「もっ。って、尾川さん興味があるの?」
「家お金持ちじゃないから、お小遣い稼ぎになるならいいなって。それに……」
尾川さんの顔が近寄ってくる。
「それにね。レベルアップをすると、記憶力とかも上がるし、進学とか、就職で有利になるみたいよ。努力評価みたいなのが付くみたい」
耳のそばで囁くように教えてくれる。
もう夕方なのに、離れ際、ふわっとシャンプーか何かの匂いがする。
「へーそうなんだ」
なぜかドギマギして、逆に素っ気なく答える。
「一人だと怖いし。山瀬君も今部活とかしていないなら、一緒に行ってくれない?」
彼女は、少し体を傾け、顔を覗き込むように見上げてくる。
「分かった。週末に行って見よう」
彼女の少しこわばっていた顔が、笑顔になる。
「ありがとう。男子と二人って、デートみたい。あっごめん。はしゃぎすぎだね。それじゃ。ばいばい」
そう言って、俺とは違う方向へ帰っていった。
彼女は、話すと思っていたより普通だった。
ああいや。もっとしゃべらない感じだと、勝手に思っていた。
俺はその晩から、土日の行動について、すべてのシミュレーションを行う。
ところが、前の晩から寝られず、結局一睡もせずに待ち合わせに向かう。
自分のハートが、こんなに弱いとは知らなかった。
ギルドで受付して、カードを作る間に、身体の3Dスキャンを撮られる。
これを元にして、装備とかを買うときに、カードを渡素だけで、サイズのあったモノが出てくるらしい。
そして法的な座学。中は日本ではない。だがダンジョンの独自のルールがあり、これは世界共通だという事だ。
これがまた、眠りを誘う。
必殺、山瀬家相伝、開眼睡眠法を実行する。
気が付けば、なぜか彼女の膝枕で眠っていた。
「あれっ」
「おはよう。よく眠っていたわね。座学の先生が呆れていたわよ」
「あれっ。たしか?」
色々と疑問に思うが、出席はしていたので問題はない様だ。
ライセンスを受け取り、ダンジョン内に入る。
ライセンスをセンサーに当てるだけ。
自動改札のようなゲートを越えて中に入る。
最初は一階から。
装備も何も無しで入れるのは、一階のみだと念押しをされている。
それでもゴブリンの一撃を食らうと、骨も折れるし、打ち所によっては死ぬこともあるようだ。
ネットで書かれていた、初心者用最強武器。金属バットを抜く。
思わず笑いが出てしまう。
彼女はなぜか、すりこぎ?
「あっこれ? 麺打ち棒」
見ていたのに、気がついたようだ。
「おばあちゃんが、上手だったんだって」
それを聞いて驚く。
短剣術のような麺打ち棒の流派が?
「誰も今、おそばを打たなくなったし。持って来ちゃった」
俺はほっとする。
そうかそばか。
普通だな。
その時、視界の端に、上から何か落ちてくるのが見えた。
「危ない」
彼女を押し倒す。
「きゃあ」
彼女はそう叫ぶが、俺の背中にべたっと何かが落ちてきた感じがする。
あわてて起き上がり、体を揺する。
剥げないし、落ちない。
あわてて服を脱ぎ、背中側を見る。ぐちょっとした何か。
まあスライムだ。
剥がせないから、地面に放り服ごと踏む。
見事に潰したようで、何かが流れ込んでくる。
すると、ダンジョンへ入ってから、ずっとあった変な頭痛が、いきなりすっきりする。
頭の中に、狂戦士などと言う文字が、浮かんだ。
なんだこれ。力がみなぎる。
「さっきのって?」
「スライムが落ちてきたんだ」
そう言いながら、天井を見上げる。
「そうなんだ。薄暗くなったから、いきなり山瀬君のスイッチが…… 入ったのかと……」
なんだか、ごにょごにょと言っている彼女。
「どうしたの?」
「何でも無い」
彼女はそう言うと、麺打ち棒を振りまわしながら歩き出す。
そんなダンジョンデートが切っ掛けで、彼女と付き合い始めた。
そして俺はなぜか、眠りの狂太郎と呼ばれている。
座学の先生が、事あるごとに人のことを話題に出し。爆睡してもライセンスを貰った人として有名になった。
そして、俺の戦い方を見て、お年寄りが狂太郎とか言い出した。
結果、眠りの狂太郎が爆誕。
いつの間にか、彼女まで雄叫びを上げて戦うようになっていた。
スキル発動時はよく覚えていないが、叫びながら敵を煽り。戦っているらしい。
なんとなくそれが、気持ちよさそうに見えたらしく、彼女も戦闘時に叫びだした。
「大声を出すと、ストレス解消になるから良いわね」
そう言うことらしい。
彼女は言う。
「あなたの色に染まったのよ……」
だけど、僕には理解ができない。
なぜなら、スキル発動時は敵しか見えていない。
そして解除すると、戦闘中のことをほとんど覚えていない。
彼女が叫び、笑いながら、敵をぶん殴る姿は少し引いてしまう。
その結果、僕たちを見ると、他のハンターが逃げる。
そして、ある日。自分の戦闘ビデオを見た。
おれは、彼女が引かずに横に立ってくれていることに感謝をする。
それほど僕の戦闘は、ひどく、えげつなかった。
強いけど。
ほとんど、モザイクとピーが必要な感じ。
俺としては、最悪なモノだった。
だけど、彼女がたまに言う。
「ねえっ。ダンジョン外では、スキルを発動できないの?」
戦闘時の俺が、彼女の何かに突き刺さったようだ。
期待をする彼女。赤い顔と潤んだ目。その惚けるような表情が怖い。
KAC20247 あなたの色に染められて 久遠 れんり @recmiya
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