第6話 KACはまだ続く

 3日後、アトリの「できたー!!」という歓声を聞き、扉の前で半分眠りかけていた僕は飛び上がった。この3日間、アトリが外出しないように家の前で張り込んでいたのだ。散歩したいとか、お腹空いたとか、飲みに行きたいとか、何かと理由をつけて逃げ出そうとするところを、何度も阻止した。隙あらば出ていこうとするので本当に大変だった。そして、彼女がおとなしく机に向かっているときには、彼女の作品を読んで過ごした。おかげで、すっかりファンになってしまった。


「よかった、やっと完成したんですね。どんなお話ですか?」


 心からほっとして、僕は尋ねた。


 アトリは自慢げに原稿を見せた。

 タイトルは『トリあえずエール』。


 この人、どんだけ酒に飢えているんだ!


「場末の酒場で飲んだくれていた女作家が、たまたま隣り合わせた青年と意気投合して、一緒にてっぺんをトリに行く話だよ」

「へえ、読んでもいないのに、なんでか親近感があるなぁ」

「いやー、おかげさまでここまでこれたよ。さあ、書き上げたお祝いに飲みに行こうか」


 そのとき、遠くから「チリン、チリン、チリーン」とベルの音が聞こえた。


「次のお題が発表されたようですね」

「もういやだぁあぁあ」


 変な人だ。そんなに嫌なら、やめればいいのに。こうまで拒否反応を見せても、結局ギリギリのところであがこうとする。だけど僕は、この人のそういう変なところを見ているのが少し楽しくなってきていた。


「仕方ない。一杯だけ飲みに行きましょう。僕がおごりますから」

「お、やったね! 君、私の扱い方がわかってきたようじゃないか!」

「なんで偉そうなんですか……」


 KACというお祭りにすっかり魅了されてしまった僕は、しばらくこの森にとどまることを決めた。実は僕も、今度は書き手として参加してみようと思っている。トリにもらった、この羽根ペンを使って。


 彼女がどんな反応をするのか、すごく楽しみだ。





(・θ・)おしまい(・θ・)

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カークヨームの森の民 文月みつか @natsu73

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