第5話 カークヨームの守り神

 ひときわ高くて太い大樹のうろの中に、それはいた。


「大トリ様~!!」

「おー、どうしたの?」


 アトリはその大きなモフモフしたトリの胸にバフっと飛び込んだ。


「新しいユーザーを連れてきました。褒めてください!」

「あ、そこのボーイのことかな? ようこそ、カークヨームの森へ」


 巨大なトリが、やさしい瞳で僕を見ている。神様にしては丸っこいし、モフモフしすぎだし、かわいすぎる。


「ど、どうも」

「どうかな? KAC楽しんでくれてる?」

「あ、はい……裏側も見ちゃったからちょっと複雑ですけど」

「そっかぁ。まあ、何事にも負の側面はあるからね。追い込んで苦しみの果てに生み出すのもよし、無理せずゆる~くやるのもよし、ヨムのに徹するのもよし、仲間とわいわい楽しむのもよしだよ」

「はぁ……」


 アトリは神の羽毛に埋もれて幸せそうである。


 ……神ってなんだっけ?


「せっかく来てくれたんだ。君にはこれをあげよう」


 大トリ様は自分の羽根をピッと一枚引っこ抜いて差し出した。


「記念品だよ。服につけてもいいし、羽根ペンにしてもいい」

「どうも……」

「うーん、気持ちいい。このまま眠っちゃいたいよぉ」

「ダメダメ。アトリ、君は今回こそは皆勤賞目指すって宣言していたじゃない。戻って、机に向かいなさい」

「お、鬼……」

「鬼じゃない、トリだよ」


 大トリ様はむくっと立ち上がり、翼を広げた。体に対して翼はかなり小さかった。


「そこの君、アトリをよろしくね。トリはこれから、積読つんどくしてた作品をスコップしてくるから」

「あー、待ってくださいよぉ、私もう皆勤賞なんて目指すのやめますぅ! 体も心も持たないんですよぉ~、おかあさぁぁぁん!!」


 必死で泣きつくアトリ。


「お母さんじゃない、トリだよ」


 大トリ様はバッサバッサと羽ばたいて、大樹から飛び立っていった。あんなアンバランスな翼でちゃんと飛べているのが不思議だった。


 飛んでいく大トリ様をしばらく呆然と眺めていたが、子どもみたいに「うわぁぁぁん」と泣きじゃくりだしたアトリの声でハッと我に返った。


「アトリさん、帰りましょう。そして机に向かいましょう」

「いやだよぉ、だって、だってどうせ頑張ってもあんまり読んでくれる人いないし、すごく頑張ってもいいものできないときもあるし、こんなに頑張ってもリワードは換金できずに消えていっちゃうし……もうあきらめる。ラクになりたい」

「そうですか。残念です。僕はアトリさんの作品、読んでみたいですけどね」

「……ほんとに?」

「はい。こんなヤバい人が書く小説ってどんなかなぁって、気になります」

「ヤバい、かなぁ?」

「けっこうヤバいと思います」


 「うーん?」と首をかしげているアトリの手を取り、立ち上がらせる。


「さあ。立ってください。ここに来たのも何かのご縁です。僕も力になりますから」


 僕は半べそのアトリの手を取って、木のうろから引っ張り出した。

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