第4話 ボツ塚と神(?)

「君にはこの祭りの裏側も見てほしいと思ってね」


 そう言ってアトリが次に連れて行ってくれたのは、祭りの喧騒やトリ小屋から少し離れた、うら寂しい場所だった。こんもりとした小さな白い山がたくさん連なっている。風が吹くと、それはひらひらと舞った。


「なんだ、ただの紙屑じゃないですか」

「ここには、作品になり切れずに捨てられたものたちが眠っている。私のボツ原稿も、けっこう混じってるんだ」


 紙屑、などと言ってしまったことを後悔した。アトリは寂しそうに、白い山を手ですくってさらさらと流した。よく見ると、ただの紙ではなく文字が刻まれていた。ここは、物語として誕生しそこなったものたちの墓場だった。


「そんなにしょげた顔をするな。いつかは土に還って、次なる作品の土台となるかもしれないんだ。よし、次はもうちょといいものを見せてやろう」


 ボツ塚に近いところに、紙切れではなく普通の紙の束が破棄されているところがあった。


「えっと、これはもしかして完成した作品群ですか?」

「そうだ。ただし多すぎる作品群に埋もれてしまって、日の目を見ることなく忘れられているものだ」


 また暗い話になるのかと思ったが、そこへ人影がやってきた。スコップを手にした彼は、さっくりと紙の束をひっくり返し、宙に舞った作品の中から、きらりと光る一枚をつかみ取った。そのあまりの神々しさに、僕は涙が出そうになった。


「あ、あの人は?」

「スコッパーだ。時々ああして、埋もれた名作を掘り返してくれるんだ。書き手としては神にも等しい存在だな」


 僕は地面に膝をつき、こうべを垂れた。


「おお、どうか恵まれないものたちに救いの手を……」

「何をやってるんだ?」

「神の御前ですから、祈りを捧げているんです」

「やめておけ。彼らはたしかにありがたい存在には違いないが、神ではない」

「えっ、違うの?」

「会ってみたいか? 私たちの神様に」

「会えるんですか?」

「ああ。特別に案内してやろう」

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