第3話 金の卵

 次にアトリが僕を案内したのは、「トリ小屋」と呼ばれる場所だった。小屋とはいうが、それはかなり大きな建物だった。中に入ると無数の丸っこいトリが自由にとんだり跳ねたり眠ったりしていた。


「すごいだろ。ここのトリたちが産んだ卵からは、さっき箱に入っていた星やハートが採れるんだ。だからここのトリたちは、カークヨームの民のために日々卵を産み続けている」

「トリって、この森では神の使いとされているんですよね?」

「ああ。さっきそう言っただろう?」


 なぜわかっていることを聞くのだという顔だった。


 もう深くはつっこむまい。


「あら、アトリちゃんじゃない」


 白い作業着姿の年配の女性が、親しげにアトリに話しかけた。


「こんなところでデートしてるの?」

「こんにちは卵のおばさん。デートじゃありません。見学です」

「うらやましいわあ」


 作業員の女性は話を聞いているのかいないのか、トリがそっちこっちで産み落とした卵をひょいひょいと箱の中に入れていく。


「でもこんなところで油売ってていいの? もう次のお題が発表されているはずだけど」

「締め切りはまだ先ですから、大丈夫ですよ」

「そう? いつも期限間近になって終わらないって騒いでるようだけど」

「そんなことないですよ! 私もやるときはやるんです!」


 そのとき、ちょこまかと動いていた一羽のトリが、僕の足元で突然ウーンとうなってうずくまった。そして、コロンとひとつ、小さな卵を産み落とした。ほかの卵とは様子が違っていたので、気になって拾い上げてみる。


「これは、金の卵……?」

「えっ!?」

「あらー、めずらしいわね」


 アトリも、おばさんも興奮した様子で僕の手の中の卵を見つめた。


「そんなにすごいものなんですか?」

「もちろん! すごく価値のあるものだ」

「へえ。いくらぐらいで売れるんですか?」

「売る? 違うな。これは景品と交換するんだ。金なら一個、銀なら五個集めると缶詰と交換できる」

「なんだそりゃ。もしかして中身はおもちゃとかですか?」

「いや。編集部に目をつけられて、特別室に連れて行ってもらえるんだ。豪華な寝床と食事つきでな。大変名誉なことだが、いいものを書き上げるまで外に出てこられない」

「そっちの缶詰かい!」

「いいなあ。私も一度はもらってみたいものだ」


 僕はげんなりして、おばさんに卵を渡した。

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