第4話
翌日から俺は精力的に活動した。タブレットで生誕祭の詳細を調べ、各イベントにはできるだけ参加するように予定を組み、早速創作に取り掛かった。短編にはテーマがある上、応募期間が驚くほど短い。そんな書き方をしたことがなかった俺は大いに戸惑った。何を書くか迷いに迷い、プロットを組んでは崩すを繰り返し、これまでになく集中して何とか締め切りまでに書き上げ投稿した。短時間で仕上げた割にはうまく書けた気がした。何より、随分長いこと筆を執る気にすらならなかった自分が、これ程集中できたことが嬉しかった。
次のテーマが発表されるまで、俺は同じテーマで書かれた作品を読んで回ることにした。今まで同じテーマで小説を書いて競い合うというような経験がなかったので、自分とはまるで違う切り口が新鮮で面白かった。作品の優劣はそれなりに感じたが、そんなことより作品に込める熱量に心を動かされた。俺は、読んだ証に次々と応援マークをクリックしていった。
ひとしきり読んだ後、俺は自分の作品も読んでもらえたのではないかと思い至った。案の定、俺の短編にも応援マークがいくつか付いている。俺が回ったところの作者もちらほら見かけた。中には高評価をつけてくれている人もいる。これが付くとポイントがアップして生活費の足しになると居酒屋の店主が教えてくれた。それならば全員に付けて回ればお返しに俺ももらえるのではないか? しかし、そんな単純な理屈でポイント稼ぎができては運営に支障が出てしまいそうな気がする。俺は評価に関してはもう少し様子を見ることにした。
評価より嬉しかったのは作品の感想が寄せられたことだ。公募に精を出していた頃には誰かが自分の作品を読むということが全くなかったので、何が良くて何がだめなのか自分では全くわからなかった。そもそも良いところがあるのかすら自信がなかった。しかし今は、ここが良かった、もっと読みたいなどの感想が目の前にある。読者がいることがどれだけありがたいか、俺はしみじみと噛み締めた。お礼の気持ちも込めて、心を動かされた作品には感想を書くように心掛けた。
読者の存在が創作意欲に火をつけ、俺はますます書くことに熱中した。感想を参考に読みやすさを工夫し、少しでも良い評価がもらえるように心を込めて書いた。そうしてできた二作目は、我ながらなかなかの出来ばえだと思えた。意気揚々と投稿すると、前回と違いすぐに応援マークが付いた。どうやら俺が応援したり感想を寄せた人が来てくれたようだ。いつの間にかフォローしてくれている人もいた。フォローすれば通知が来ることを知った俺は、同じように応援しフォローして回った。物語に感動した時には最大の評価を残すこともし始めた。程なく俺は百人を超えるフォロワーを持つに至り、
それからも俺は大いに書き、大いに読み、他の作者との交流を深めた。お陰で三月の半ば頃には仲間と呼べる人たちがたくさんできた。居酒屋に集まって騒いだり、誰かの家で創作論を交わすこともあった。人生がこんなに楽しいと思えたのはこれが初めてだった。
しかし、リアルな人間関係に夢中になる余り創作に割く時間が削られ、締め切りに間に合わないことが徐々に増えていった。当然、全てのイベントに参加しようという当初の目標は達成できなくなったし、活動が減ったせいでポイントが伸び悩み生活に支障が出始めた。俺は手っ取り早く稼ぐ方法として、読んだ先々で必ず最大評価を入れるようにした。そうすればフォロワーが増え、自分の作品のランキングも上がってそれによるポイントが入ってくる。みんなと集まって酒を飲むにはポイントが不可欠だ。いつしか俺は、ろくに読みもせず評価だけをつけて回るようになっていった。
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