【KAC20246】伝説のトリ
いとうみこと
第1話
「これが
長い長い旅の果て、やっとの思いで辿り着いた希望の町、覚夜夢。俺は眼下に広がる町をうっとりと見渡した。中央には空高くそびえ立つ円錐状の塔があり、そこから道が放射状に伸びて規則正しい町並みを作っている。ひとつひとつの家はかなり小さく見えるが、その一方で街外れには大きな建物が並んでいる。ここにも高級住宅街というものが存在するようだ。塔のずっと向こう側には駅らしきものが見える。自分が知らなかっただけで、容易にたどり着く方法があったのだろう。今更言っても仕方ないが、これも書くことで昇華すればいい。
塔の影が長く伸びて時計の長針のように俺を指していた。俺は急かされる思いで山を下り、中央の塔を目指した。この町に着いたらまずここを目指すようにと教えられていたからだ。どの道からでも真っ直ぐに行けるので迷うことはない。何より天を突く程の高さがあるから、間違っても見失うことはなかった。
近くまで行くと、塔はランダムな凹凸があるメタリックな素材で覆われていて、使い古した鉄のフライパンを想起させた。俺が正面に回り込んで入ろうとしたその時、突然頭上で電飾が光った。驚いて見上げると、かなり高いところで輝いている大きな看板が目に入った。そこには縦書きで「
外の無骨さとは裏腹に中はかなり洗練されていた。広々とした床は大理石、天井が高く、壁は白、円形に並んだカウンターで対応しているのは全てロボットというハイテクさだ。そのくせ中央には部屋の雰囲気にそぐわない、恐らくは外壁と同じ素材のひと際高い台がある。その上にはふくよかな
それから俺は「コンテスト応募」「イベント情報」などの表示がある中「登録受け付け」のカウンターに行った。夕方のせいか俺の他には誰もいない。ロボットから性別不明の声が流れた。
「いらっしゃいませ。お名前とご用件をどうぞ」
「
俺は前のめりに早口で言った。ここへ来てそう言えば誰でも住まわせてくれると聞いたからだ。書くことに専念出来て、しかも家賃もいらないという。そんなうまい話があるものかと内心疑いつつも夢を捨てきれなかった。
「承知しました。こちらの端末からお名前、生年月日、アカウント名、ペンネームを登録してください」
「え、いいのか?」
あまりのあっけなさに俺は膝から崩れそうになった。
「登録してください」
文字通り機械的に促されて、喜ぶ間もなく他所で使っていた名前をそのまま入力した。
「登録が完了しました。それでは家を割り当てます。こちらのタブレットをお持ちください。地図が表示されます。こちらが鍵です。家に到着次第、この街の規約をよく読んで理解してください。規約に反する行為が認められた場合、強制退去となりますのでご承知おきください。手続きは以上となります。良い創作活動を」
そこまで言うと、ロボットは生気を失った。気づけば他のロボットも一様に黙っている。恐らくは省電力モードなのだろう。
俺は再び
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