紛うことなき恋の黒歴史②

卒業式当日、運命の朝。


ついに、U子ちゃんに告白する日がやってきた。


普段俺は遅刻ギリギリで教室に飛び込む劣等生プレイをかましていたのだが、この日は朝早い時間に学校に着く必要があった。


そのためいつもよりも早く起きて、身を清めるためにシャワーを浴びた。


念入りに体を洗い、身も心もさっぱり。


さらに俺はいつも着けているメガネを外して、わざわざ度の合わない母親のコンタクトを着けていくことに決めた。


少しでも垢抜け感を演出して、勝率を上げなければいけない。


全ては、俺とU子ちゃんの明るい未来のために。


身なりは整え、気持ちを伝える覚悟も決めた。


中学生最後の日、俺は胸を張って家を出発した。


いつもの登校路も、なんだか清々しく感じられた。


その日は曇りだったが、俺は朝のひんやりとした空気を胸一杯に吸い込んで、コンタクトのせいで格段に上がった視力で、世界を見渡した。


マインド的には、もう勝ったも同然だった。


やってやるぞ。


そう力強く思った時、中学の校舎が見えてきた。


「ん…?」


その時、俺はある異変に気づいた。ここから俺の歯車が徐々に狂い始める。



なんか、人多くね!?



そう。普段よりも明らかに早く学校に向かっていたので、俺の見立てでは生徒なんてほんの数人いる程度だと思っていた。


だけど卒業式当日という特殊な状況が災いしてか、この日はみんな早めに登校していたのだ。



ヤバい。これは本気でヤバい。


俺の思い描いていた告白シーンは、朝の生徒が少ない時間帯にこっそりとU子ちゃんを廊下に呼び出して、淡い想いを伝える、というものだった。


今になって思えば、最初からU子ちゃんを人目のつかない場所に呼び出して、完全に2人きりになれる空間を作っておけばよかったのだが。


それこそ、昨夜の段階でLINEを駆使して、いくらでも手を打つことはできた。


だが、「恋は人を盲目にする」というのは真実だったようで、俺はそんな簡単なことにも考えが及ばなかった。


先程までの自信はすっかり消え失せ、首筋に冷や汗を浮かべながら、俺は校内へ入っていった。


階段を上がり、自分の教室へ。


やはり教室内には既にクラスメイトがいた。


2、3人くらいならまだ許容範囲内だが、確か10人くらいいた。


心臓がバクバクと音を鳴らし始める。


俺はロッカーにリュックを入れ、廊下に出た。


U子ちゃんのいる教室へ向かうためだ。



一歩一歩、震える足を前に進めていく。


そしてU子ちゃんのいる教室の前まで辿り着き、中をそっと覗く。


「………」


教室内には、たくさんの生徒が談笑する光景が広がっていた。


今、他クラスの俺が急に飛び込んで、「U子ちゃん、ちょっと来て」なんて声でも掛けようものなら、一体みんなにどんな目で見られ、何を思われるだろうか。


そんなこと、考えるまでもなかった。



行かないと。



必死に心の中で自分に命じる。それでも俺の足は全く言うことを聞かず、俺はただ静かな廊下に1人立ち尽くすだけだった。



結局俺は、U子ちゃんに告白することができなかった。



自分の勇気がないばっかりに、わざわざU子ちゃんに「朝時間ください」って明らかな告白フラグまで作っておいて、俺は約束をすっぽかしたのだ。


しかも話はこれで終わらない。


その後俺たち3年は卒業式を終えたのだが、みんな最後の思い出作りに、スマホを使って写真撮影に精を出していた。


玄関を出たところでは、生徒と保護者の人だかりが出来ていて、各々楽しそうに写真を撮り合っていた。


式を見に来た母親と一緒に玄関を出たところで、俺はU子ちゃんの姿を発見した。



さすがに今朝のこと謝らないと…!


そう思った俺はU子ちゃんの元へ駆け出した。


この時の俺は半ば投げやり状態で、周囲の人だかりは大して気にならなかった。


U子ちゃんは俺の姿に気づいて、顔を上げた。


U子ちゃんと目を合わせた瞬間、緊張や罪悪感や申し訳なさが一気に押し寄せて、俺は全身が凍りついてしまった。


「今朝…行けなくて、すみませんでした」


ギリギリ聞き取れるくらいの小さくて低い声で、俺はそう言った。キョドり気味で、耳を真っ赤にして、声も若干かすれて、なぜか最後敬語で、陰キャの要素を全て詰め込んだような情けない謝罪だった。


「ああ…。別に、いいよ」


U子ちゃんはそっけなく言った。


視線は俺ではなく、どこか別の方向を向いていた。


なんというか、「もう話しかけないでくれ」的な雰囲気をひしひしと感じた。



ああ、俺の恋は終わってしまったな…。


そう心の中で呟いた時、さらなる不運が俺を襲った。


「あら!なになに2人とも、写真撮ってあげようか??」


隣から、俺の母親の声が飛んできた。


どうやら俺たちがそういう関係だと勘違いしたらしく、母親的には気を遣って写真撮影を申し出てきたのだ。


おまけにU子ちゃんの母親も駆けつけてきて、

「そこ並びな!撮ったげるから!」と言って、俺とU子ちゃんは2人並ばされた。


今思い返しても、この時のU子ちゃんはガチで最悪の気分だっただろうな。


「告白されるかも」という心積もりだけさせられて、肝心の会う約束はすっぽかされて、後からのこのこコミュ障丸出しの情けない謝罪をされ、挙げ句の果てには俺との関係を親に勘違いされてツーショット写真を撮らされる。


何も知らない母親たちはキャッキャとスマホで写真を撮っていた。俺は震える腕を持ち上げて、小さくピースサインだけ作った。


撮影後は特に会話を交わすことなく、U子ちゃんは他の友達の所へパタパタと向かっていった。


すっかり萎えた俺は、3年間過ごした校舎を1人後にしたのだった。



そんな感じで、俺はU子ちゃんに「好き」という気持ちを伝えることが出来なかった。


恋愛においての告白って、「告白する側」ばかりピックアップされがちだけど、「告白される側」にもそれなりの勇気や覚悟がいると思う。


俺のことをどう思っていたのかは知らないが、きっとU子ちゃんもそれなりの勇気を胸に、あの朝俺が来るのを待ってくれていたはずだ。



U子ちゃんは間違いなく、俺という男に失望しただろう。


卒業式という晴れの日に、U子ちゃんの気持ちを踏み躙ってしまった。


あの時、予想外の人の多さにチキってしまったばっかりに。



これが俺の、紛うことなき恋の黒歴史。


U子ちゃん、あの時は本当にごめんなさい。



そして愚かな自分へ。



告白する時は、きちんと作戦を練って下さい。




おしまい

























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チキった結果自爆して、好きな子に振られた卒業式。 霜月夜空 @jksicou

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