チキった結果自爆して、好きな子に振られた卒業式。
霜月夜空
紛うことなき恋の黒歴史①
中学3年の時、俺には気になっている女子がいた。
その子のことは、ここではU子ちゃんと呼ばせてもらおう。
U子ちゃんとは小学校から一緒で、中1の時には席が隣になってすごく仲良く話した記憶がある。
それから時を経て、3年に上がってすぐ、俺はU子ちゃんとLINEで繋がった。
俺は自分から女子に連絡をするタイプではないが、中1の時に仲良く話したという事実が背中を押して、U子ちゃんにはかなり積極的にLINEで話しかけた。
別に下心があったわけでも、U子ちゃんと恋愛関係に発展したいと思っていたわけでもなかった。強いて言うなら、「ある特定の女子と頻繁にLINEで会話している」という状況に謎の高揚感を感じていただけだ。
そうして自分が悦に浸るための話し相手に、女子の中では一番話しやすいU子ちゃんを選んだだけだった。
そういうわけで、大体中3の5月頃から、ある程度の頻度で俺とU子ちゃんはLINEでやり取りを続けていた。
だけど思春期の男子ってすごいもので、夏休みを終えた辺りからちょっとずつ俺の中でU子ちゃんが、「気になる人」に変貌し始めていたのだ。
当時の俺がLINEで話す女子はU子ちゃん1人だったから、なんとなく「他の女子とは違う」という特別感を抱いてしまって、それがU子ちゃんを異性として意識するキッカケになったのだ。
そして、中学3年の冬。
俺の中でU子ちゃんが「気になる人」から「好きな人」に変わる決定的な瞬間が訪れた。
それは、帰りのホームルームを終えた放課後。
みんな教室前の廊下で、ワイワイと集まって騒いでいた。
普段俺はいつも一緒に帰る友達が揃ったらすぐに校舎を後にするのだが、この日はなぜか廊下で誰かとお喋りを続けていた。
受験期真っ只中で、家に帰ったら「勉強しないと」というプレッシャーに襲われる。けど、学校で友達といる時だけは、そこの重圧から逃れた気分になれる。
だから、俺は少しでもこの時間を長引かせるために、いつもはしない無駄話を続けていたのだと思う。
俺は下へと降りる階段付近で話していた。そのため横目を向ければ、帰宅する同級生たちの姿が簡単に視界に飛び込む状況だった。
で、だ。
なんと、U子ちゃんが俺のそばを通って、1人で階段を降りようとしていた。
当時、俺とU子ちゃんの関係は完全にLINEの中だけで、学校で顔を合わせても特に話すことはなかった。
繋がっているのかいないのか、俺たち2人はすごく曖昧なボヤけた状態だった。
先ほど述べた通り、俺はU子ちゃんのことが気になってはいたので、「いつか現実でも話せたら」と胸中ではずっと思っていた。
だからこそ、いつも友達といるU子ちゃんが1人で帰ろうとしている今の状況は、俺にとってまたとないチャンスに感じられたのだ。
俺は階段の方を見下ろした。すると、踊り場にいるU子ちゃんとパッと目が合った。
声は出せなかったが、僅かな勇気を振り絞り、俺は小さく右手を振った。これがあの時の俺にできる唯一の感情表現だったのだ。
それを見たU子ちゃんは眩しく笑って、
「ばいばい!」
と言って、元気に手を振り返してくれた。
その瞬間。
心臓がキュッと引き締められるような感覚を味わった。
遅れて、ふわふわとした甘い高揚感に脳内が支配された。
その時、中学生の俺はハッキリ思った。
俺は今、恋に落ちたんだ-。
ただ、手を振り返してくれただけ。
U子ちゃんからしたら、特別な意味も感情も一切なかっただろう。
だけど、ただそれだけで、あの時の俺がU子ちゃんを好きになるには十分だった。
*****
それから、俺はU子ちゃんへの好意を明確に意識した状態でLINEするようになった。
そのせいで、LINE上でのU子ちゃんの一挙手一投足に、一喜一憂する日々が続いた。
例えば返信速度。
U子ちゃんはわりと返信のペースが不安定で、一瞬で既読がついて返ってくることもあれば、二日後、三日後に返ってくることもあった。
未読で放置された時の、辛いこと辛いこと。
他にも、結構食い気味に向こうからLINEが来ることもあれば、俺が一生懸命会話を続けてるのに、かなり淡白な返事で終わらせてきたりもあった。
脈アリか脈ナシでいったら…ナシよりの不明、って感じかな。とにかく俺はトキメキと苦しみを交互に味わうような感覚だった。
ちなみに現実では、全く話しかけられなかった。この時点でお察しだが、俺は非常にチキンだ。この臆病さが、後に黒歴史を築くことになるのだが…。
時は流れ、中学の卒業式前夜。
この時の俺は、覚悟を決めていた。
そう、その覚悟とは-。
明日の朝、U子ちゃんに告白する。
ずっと抱え続けたこの気持ちを、あの子に伝える。
卒業式当日、というシチュエーションは問題ナシ。ドラマや映画で何度も目にした展開だ。
LINEのみだけど、この約1年間、俺なりにU子ちゃんとの距離は縮めた。
俺の勇気が働く範囲内で、やれることは全てやったつもりだった。
すぅ、はぁ。
俺は大きく深呼吸してから、LINEのトーク画面を開いた。
そして、スマホのキーボードに文字を入力する。日本語がおかしくないか、文章が気持ち悪くないか、もういいだろってくらい何度も何度も確認する。
高鳴る心臓を落ち着かせ、U子ちゃんへ送信。
以下、送ったメッセージとその返信。
俺 「明日朝、誰かと学校行く?」
U子 「うん、いつも通りの人といきます!」
俺 「早めに行く?」
U子 「9時に着くように行くよ」
俺 「俺もそのくらいに行くから朝、少しで
いいので時間ください!」
U子 「おっけー!」
最後のU子ちゃんの「おっけー!」を見た時、俺は静かにガッツポーズをしたことを今でも覚えている。
だって卒業式当日に、「少しでいいから時間ください」って言って、会う約束を取り付けるって、完全に告白される流れじゃん。
それで、「おっけー!」って、普段あんまり付いてないビックリマークまで付いて、結構明るめな感じで返信が来たもんだから、「え?もしかしてこれイケんじゃね?」と、俺は浅はかな期待を抱いたのである。
そして俺はニヤニヤしながら、明日の勝負に備えて早めの眠りについたのだった。
続く。
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