その愛の向かう先は。
地崎守 晶
その愛の向かう先は。
「嗚呼、貴方こそわたしの描いた理想の存在!
磨き上げられた体、冷たそうに見えて熱い眼差しをたたえる眼、エッジの効いた顔立ち、はっきりと聞き取れるバリトンボイス!
身長も体重も完璧、スタイルも抜群。
貴方以上にわたしをたぎらせる相手はいないわ!
ああ、今すぐ貴方のたくましい腕で抱きしめて!」
それはあまりにもありふれた、しかし熱烈な愛の告白。
ありふれていなかったのは……。
「こう言う時は、惜しみない称賛と好意をもらったことに感謝すベきなのだろうね。
しかし、しかしながら、まずはお互いニお互いの事を知っていクところから始めるべきではないダろうか。
先ほど君が褒めてくれた要素は全テ変更可能な外付けなのだかラ。
トリあえず、前提としてキミに知っテもらいたいので言うトだネ。
僕はハイエスト・チェア・インダストリー(株)の所有物であリ人工物であり、つまりハ、」
彼は正確さで知られる頭脳に生じたノイズを抑えながら、まずはそう発話した。とりあえずの言葉、などというものを初めてそのスピーカーから出力したのだ。
「実は僕、人間じゃないんだ。人工知能でしかないんだ」
「そんなの関係ないの……わたしはあなたと結ばれたい!!
いえ、とりあえず結婚して名前を変えたいの!!
内見なんて忌まわしい名字からとりあえず自由になりたい!!」
悲痛な叫びに、彼は……ハイエスト・チェア・インダストリーの世界最先端の技術の粋の結晶であり、あらゆるスパコンを凌駕する演算速度を誇る人工知能であり、擬似的な人格を再現してのける彼は、いよいよ混乱してしまった。
「まズ、トリあえず確認しておきたいのダガ、人工知能と人間の女性の婚姻というものは現在ノ日本国法制度でハ定義されておらず……」
名字を変えたいためにとりあえず結婚したい女性と、機械でありながら機械を作り使う側を人間からあらぬ求愛を受け人工知能。
彼と彼女の愛の向かう先とは。果たして人工知能と人間は結ばれるのか。
そして彼女は名前を変え、新しい人生を歩くことができるのか。
その答えは、神でも演算不可能。
その愛の向かう先は。 地崎守 晶 @kararu11
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