眠れない彼女は、飛ぶ鳥を。

うびぞお

お題「トリあえず」 怖い映画を観たら一緒に夜を過ごそう 番外編


 夜明けまであと少し。


 レポートに取り組んでいたら徹夜になりかけた。流石に眠らないとと思って、水を飲みにキッチンに向かう。

 キッチンの奥が彼女の、時には二人の、寝室だ。彼女を起こさないように気を付けながらキッチンに入ると、奥のガラス戸に映る光から寝室のテレビが点いてることに気付いた。

 また、彼女がホラー映画を見てるか、寝落ちしたかだ。


 ガラス戸を僅かに開けて様子を窺う。テレビに視線をやると




 鳥が、飛んでいた。




 ただ鳥が飛んでいる映像が続く。

「…どうしたんですか?」

 彼女はベッドの上で上半身を起こしている。

「そろそろ寝よっかと思って、水飲みに来たの」

 説明してから彼女の隣に滑り込むように座る。レポートがあったから今夜は別々のつもりだったけど、このまま一緒に寝ちゃお。


「この映画、何? この後、鳥に人間が殺されるの?」

「ははは、ヒチコックじゃないですよ」


 ひちこ?


「何年も掛けて撮影した渡鳥のドキュメンタリーです」

「へえ」


 ぽすんと彼女がわたしの肩に頭を乗せた。おや? 彼女が甘えてくるのは少し珍しい。

「ホラー映画じゃないんだ」

「たまには怖くない映画も観ます」

 たま、じゃなくて、まれ、な気がするけど。


 それから黙って並んでその映画を観た。

 色々な渡鳥が世界中を飛んでいく。

 卵を産んで孵す場所へ、本能で、帰るのだ。


 ふと気が付くと、

 彼女の頬を涙が伝っていた。

 それを指先で拭う。


「ごめんなさい、ただのホームシックです」



 彼女の故郷には鳥が舞う大きな湖がある。

 こうして違う街で暮らしているとふるさとが恋しくなるのかもしれない。


 映画が終わると、彼女は少しだけ寂しそうに、わたしにしがみつくように眠った。







 翌朝、彼女は恥ずかしそうに謝った。

「お詫びに今日の夕飯は私が準備します。何にします?」




「とりあえずビールと、かな」

「…デリカシーなさすぎ!」

 彼女が怖い顔になったので、トリあえず逃げた。










 ★☆

 ネタにした映画「WATARIDORI」「鳥」

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