謎お題「トリあえず」を解明せよ!

脳幹 まこと

逆張りすりゃいいってものでもない


1.

 トリあえず。

 2024年のKACの第六回として登場し、多くの作家に「お、おう……」と思わせた謎めいたお題である。

 私もこのお題を見た時は「とりあえず」と読み替えて作品を投稿していた。


 しかし、それは不正解だったのである!

 よく考えてみてほしい。あのカクヨム様が「とり」の部分をわざわざ・・・・カタカナにしている意味を。

 例のトリと掛けたってことなんじゃないの? という意見もあるが、そうは思わない。だってそうだろう? いくら何でも安直すぎる・・・・・

「テーマでも決めるかあ、うーん、じゃー、今日は焼き鳥食ってるんでトリあえず生!!」みたいなノリで決めていると? そんなはずはない。

 創作の未来を真摯に見つめていらっしゃるカクヨム様がそんなことするはずがないのである。


 間違いない。

 これはカクヨム様からの挑戦状なのだ。


 真のテーマを見つけ出して書け、ということなのだ。

 とりあえず普通に「とりあえず」と読み取ってはいけない。カタカナ2文字で「トリ」、ひらがな3文字で「あえず」とついている。

 ということは「トリえず」とかにして青い鳥の現代版でも作るか?

 いや、こんなものでもないだろう。何度も言うが、それだったら「とりあえず」で良いのである。


2.

 しばらく見つめていた。私は衝撃の事実を発見した。「とりあえず」をローマ字に直すと「toriaezu」になる。

 なんと、この五文字には全ての母音が含まれているのだ!


 これは即ち――並べかえがものすごくやりやすいことを意味する。


「やった」と思ったのもつかの間、次の問題が浮上してくる。


 toriaezuを並べ替えて出来上がるローマ字読み言葉は、以下の通りである。

 ※ただし、同じ母音は2度使えない。

 ①た行(たちつてと)から1文字 例:と

 ②ら行(らりるれろ)から1文字 例:り

 ③母音(あいうえお)から2文字 例:あ、え

 ④ざ行(ざじずぜぞ)から1文字 例:ず


 ①~④の文字順は好きに並び替えが出来る。

 トリあえず、ロチあえず、ゾリあえつ、トジあえる、ゾチあえる、ロジあえつ……


 これではキリがない。

 小さい頭で必死に考えてみたが、これが限界だった。


 オジうれた(oziureta):叔父さんが売れたときに使う。

 トラいうぜ(toraiuze):虎が発言するときに使う。

 オラついぜ(oratuize):オラついてる反抗期の子供に使う。

 ウザいてろ(uzaitero):「ウザいてる」の命令形。「そこでずっとウザいてろ」という形で用いる。


 また、上記「ウザいてろ」より、エロ(ero)を作ることができると判明したため、ここを切り口にして色々とケース分けをしてみたが、ダメだった。

 ここで諸兄らのために「エロ」を除いた3文字の並びの一覧(全36種)を展開する。


 ざついエロ、エロあずち、あたりは可能性がありそうな気がするが、

 前者はトリあえずの命名ルール(カナ2文字+ひらがな3文字)に反している、後者は安土は「あづち」であることから惜しくもテーマでないと判断した。


  いざつ あじつ うざち

  ざつい じつあ ざちう

  ついざ つあじ ちうざ

  いつざ あつじ うちざ

  ざいつ じあつ ざうち

  つざい つじあ ちざう

  いずた あずち うじた

  ずたい ずちあ じたう

  たいず ちあず たうじ

  いたず あちず うたじ

  ずいた ずあち じうた

  たずい ちずあ たじう


3.

 もうダメなのか?

 所詮、凡人ではカクヨム様の挑戦状を解き明かすことは出来ないのか?

 私はカタカナになっているトリの部分をさっとスワイプした。

 すると、検索機能が反応したのか「トリ」の一通りの意味が表示された。

 鳥の「トリ」、最後の「トリ」、そしてその次に現れたのは、


 トリ(tri-):ギリシア語に由来する,3を表す数詞接頭語。

 

 tri ……!!


 一筋の光明が差した。カギは英語だったのだ。

 よくよく考えれば、ワールドワイドなカクヨム様が日本語だけに縛られているわけがない。

 英語に翻訳することで新たな領域に手を伸ばせるかもしれない。


 この「トリあえず」を英語に直す。

 雑にAI翻訳にぶち込んでみると「とりあえず」だと「for now」になった。

 問題は「トリあえず」で、これが全然意味不明な文脈になってしまう。流石、カクヨム様はAI対策もばっちりだと心底感嘆する。

 ということは「トリあえず」を自分で読み解いて、英語に変換できるようにしなければならない。

 トリを活かすのなら、「鳥に会えない」にすべきだろうか。もっと言うと、この鳥は例の鳥だろうから、「the bird」になるはずだ。

 結果がこれだ。


 I can't watch the bird.


 中学一年で出てきそうな英文だ。

 私はこの一文を隅々まで眺め続けた。


 そして気付いたのである――

 この英文には「writeカク」と「readヨム」が含まれているのだと。

 そうか。これがカクヨム様から出されたお題だったのだ。


 つまり「トリあえず」という文言から、如何に「カクヨム」というワードを引き出すか。

 一見当たり前に見える言葉も、切り口を変えることで特別な意義ある言葉に変えることが出来るのだということを伝えたかったのだ。

 それを「トリ」というそれとない違和感によって導こうとした、天才的なお題だったのである。決して、安直なものではなかったのだ。


 オチあれず(otiarezu)。

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