鬼の倅-おにのせがれ-
サラン_小説を考える人
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――《
本当の鬼とは何だろう。
あまねく悪の起因に際し、
悪心に住まう
本当の鬼とは、
そういった状態を表すとすれば。
山村には、蝶や野鳥が『今や遅し』と萌え木や花芽をついばんでいる。
ここには、古びた政治の腐敗や、
新たな時代への過剰な期待なぞ、
全く関係なかった様な空間があった。
――― 名は、
これは彼らの昔話 ……。
鬼の
鬼の
「あんだって、そう
渋い顔したジッさまが、呆れている。
「や、身体の部位もどれが欠けても困るでしょ?それと同じで、必要ない人間は居ないんじゃないかって、俺ァそう言ってんですよ。」
一見、
再び、ジッさまに食い下がったが、
「じゃあアレか、
「そりゃあ、クソは
「
ぶわっはっは、と豪快に笑うと
いつもの
男達は
やたら正義感が強い
名を
寅吉は村でも評判の働き者だ。
農夫の
村の用心棒ってな具合だ。
寅吉には、
『
「武将にでもする気かい」と
親父に似て
妻のツヤ子は、
そんな事を
いつもより余計に
「去年より
育ち盛りの食い
至って平和な家庭を守る寅吉だが、
一つだけ子にすら言えない、
――
鬼の
楚々とした鮎の夫婦が、
水に土に豊かである里山にも、
間もなく
もう
こんな
ヒトに言えない
先々の墓にしまい込んだ“それ”は、
たとえ親でも言えない
長らく、共に夫婦の間だけで
悩み苦しみ隠し続けてきた“それ”は、
しかし
忘れつつある事でもある。
寅吉は
『いづれ決まったら
と、頼られている。
大変な名誉だが、
自然、
妻の事情を考えて負担になる事は避けたいと、
時代は
だが
治安もおだやかで大きな問題は無く、
それを理由に、
ズルズルと返事を
いつかは……とは考えているが。
手を止めた
カゲロウの様に
鬼の
「おとぅ、竹トンボ!」
向こう
「なんだ自分でつくったのか、どれ。」
お
ヘンチクリンな軌道を描いて
見事にボテッと落ちた。
「ありゃ、こりゃあ駄目だ」
羽の部分がチグハグで、バランスが悪いらしく、これでは上手く飛ばせない。
「駄目なの ?」
曇り顔になった
「ハッハ、いやよく出来てるよ」
クルクルと指先で様子を見、
「家さ
お父にとって目に入れても痛くない程、
実際、年の割に幼い息子は、
性格も優しいし、素直さがある。
男でこの溺愛ぶりでは、
女の子が産まれたら推して知るべしだ。
だが、あと少し、
「かかさん、どうした 」
いつも武虎べったりのツヤ子は、
今日は付いて来ていないようだが。
「おっかァ、向こう山の
“向こう山の姉やん”とは、付き合いが長い。隣村の
「向こう山の
この村でも名物になるほど、美味い
寅吉の親父が、これを大の好物で、
寅吉の嫁に来るよう頼み込んでた程の。
まあ、向こう山の姉やんの方は、
せんなくサッサと同村の男に嫁いだが。
「俺ァ、漬物にも勝てんのか」と
落ち込んだものだ。
ンなもんで、家族付き合いは深い。
ツヤ子の姉役のように面倒を見てくれる。
母を早くに亡くした寅吉には出来ないような、母替わりの気配りをしてくれる。
嫁ぎたてだったツヤ子も彼女を慕い、
向こう山の姉やんのおかげで、
難なく村にも受け入れられた。
名はお菊と言う。
お菊ちゃんが来ると、
決まってツヤ子は
やれ「畑に猿が出て
やれ「隣村の村長に
「こりゃ、
あれやこれやと、地産名品を買い込んでいることだろう。
お菊の品物はどれも
とても楽しみである。
「
バッタを追い回していた武虎は
嬉しそうに次はモグラを探し始めた。
鬼の
毎度おなじみ馬鹿話で御座い。
人のご縁たぁ、不思議なもんでしてハイ。
出会おうと思うと相手は逃げちまう。
じゃあ待つってんで、すると待ちぼうけ。
こちらをとれば、向こうが立たない。
向こうをとれば、こちらは立たず。
水の中のドジョウの様なもんです。
――珍しい、落語の
年に一度の花祭りがひらかれた。
この日を心待ちにしていた妻が、
あと ふた月み月の
七福神みたく笑い転げている。
ツヤと
この花祭りだった。
あん時のツヤのべっぴん
今でも
ゾクッとする位、
一緒に連れ立った男連中みんな
可愛い瞳に唇がなんとも色っぽい。
丸顔なのに、妙にスラリと大人っぽくて、
「年は上かな」「いやわからんぞ」
「男はいるかな」「わからんて」
あーでもない、こーでもない、と
仲間で喋ってるうちにフッと消えちまって。
火に突っ込んでいく虫みたいに、
慌てて追っかけちまったって
なんとか追いつき
仲間たぁハグレて俺一人だけでな。
蹴られるわ、ぶつかって
「で、散々だったが、なんとか口説けたんだろ、ほんで
隣んちの
「あ痛え!?」
「あんたそりゃどう言う意味だい!?」
ゴツンと
幼なじみの丸眼鏡を
「可愛い嫁はそんな事せんわ!」
「はいはい、いい加減にしろ
本当に毎度おなじみ馬鹿話、だ。
ツヤはさっきから笑いっぱなしだ。
隣の幼なじみ夫婦は
寅吉がツヤと結婚したすぐ後、
幼なじみの丸眼鏡……
すぐに今の嫁さんを連れてきた。
――(お世辞にも美人じゃないが)――
それっから毎日、
「可愛くないとか言ってるがお前さん、
その
すぐ子供4人もこさえただろうに。」
きっと茂吉は相当な
「あら、可愛いだって!!聞いたかい?」
褒められて上機嫌の隣の嫁ごは、
「
「いて、いてて、いてっ」
「あのなァ、可愛い
ツヤちゃんみたく、人よし、器量よし、
料理うまし、そうゆう娘でな、」
「おまけに“
そうゆう余計な事をいう。
「あっ、
「ちょっと寅吉さん、
またシゲさんに
ほら見ろ、今度はこっちに火の粉だ。
茂吉は、ふくれるツヤの顔が
「怒ると
こちらの
「あ、ホラ、ベッコ飴があるぜ。」
色とりどり並ぶ
「
「仲良いなァ、いいなあ、俺もツヤ子ちゃんと仲良くしてみたかったなあ。」
嫁が子供らと祭り見物に行ったをいい事に、なにやら勝手な事を茂吉がほざく。
「……お前ツヤが好きなのか?」
「馬鹿言ってんな、嫁に殺されるわ」
「ツヤは絶世の美人だもんな、いやわかるよ。うん。スマンな
丸眼鏡の茂吉は呆れている。
「あんたァ、ちょっと手伝っとくれ!」
四人の子供がそれぞれ動くもんで、
てんてこ舞いの茂吉の嫁ごが呼んでいる。
父ちゃんに手を振る幼子らと、
おもちゃが欲しくて泣き出す子。
いや、子だくさんも 苦労だろう。
その分、幸福も子だくさんなのだろう。
「ツヤちゃん、
じゃ、
「けけけ」と
茂吉は家族んとこへ走っていった。
「またね」と手を振り見送った後、ツヤ子は寅吉の目をジッとみて、
「もう、
おう、可愛いな、照れてやがる。
「恥じらいがない人、嫌いです。」
今度は、プッと
ごめんと黙って、手を繋ぐ。
いまさら思い出した。
――今日は久しぶりに二人きりだった。
鬼の
―――そう、今日は二人きり。
数年ぶりの夫婦水入らずだ。―――
誰より花祭りを楽しみにしてた
「あら、どうしようかしら。」
「こりゃ、当分起きないな。」
「おおい、おおい、起きろ
「あらま、可愛らしい」
…………
「駄目だ、全く起きん。息はしてる。」
「天神さんで
「やって、やって !」と散々に祭り当日の肩車の練習をさせられ、あんなに嬉しそうにしてたのになぁ。
起きて祭が終わってたら、
……泣いてしまうだろうなあ。
「どうしましょうかねぇ、困ったわ。」
ツヤと顔を見合わせ
寅吉の家は
同じ敷地には、小さな武道場もあり、寅吉はそこで子供らに武術を教える。
そも、年一度の一家
孫と一緒に出かけられると、内心喜び
寅吉と同じく、子
なにやらしばらく考え込むと、
ポンと
「お前さんら、二人で行きなさい」
と言い出した。
近隣の村からも、多くの知人友人が集まってくる、誰にとっても特別な日だ。
親父もここ阿智村に住んで長い。
久しぶりに、竹馬の友である武道仲間たちに会う約束もあったはずだが――――。
気を利かしたのだろう。
「
起きたら連れてくから、たまにゃ水入らずで楽しんできたらどうだ。」
しばらくの押し
結局ツヤと寅吉たちが折れる形で、親父さんのご厚意に甘えることにした。
恐縮しつつも、久々の
寅吉はそれと悟られずとも、
普段からツヤにゾッコンの骨抜き
あぁ、本当に久しぶりだ。
寝てしまってる
さて、どう過ごそうか。――――
鬼の
ここに独りの男あり。
名を“
武家から転向した商家であった親の
その頃から、悪い噂は絶えず、だがしかし、
それもそのはず。
――飯田に
幕末期、飯田一門の
飯田は、現代で言うところの
『
鬼の
歴史は、大海の泡の如く人を惑わす。
時に其の力は抗うを許さず人を支配する。
普段穏やかな小川ですら、
嵐が来ればその凶暴をあらわにして
あらゆるモノを押し流し遠く大海へ
――木曽川水系は今日も
降り注ぐ風雪が、
その様は、まるで亡国の夢に然り――。
薩長同盟が世間を賑わせてから久しい。
「
明治に入り、開国の恩恵は各地を巡り、多くの国民に対し“自由な行動の権利”が法的に
再び、新たな広告塔となる天皇とゆう個の
未曾有の好景気を前に、国内を自由に移動させられる
中央集権国家、国民国家の誕生である。
開国景気の到来である。――――
――西洋かぶれの日本家屋が
ここにも、その
木曽川水系の恩恵預かる
そこに
「おい。
「へえ。
「ほぅか。ほんなら、上物の
配下の
「
「ですが、全部処分しちまいましたぜ。
残りはダンナの手にある数枚だけで。」
「それでええ。時代はとうに変わった。」
幕末期、飯田一門の主力産業は武器の
偽金の儲けも
全国
“青は藍より出でて藍より青し”
もとより親より受け継いだ正当な商売でも、地頭の良さと
若くして其の頭角を
一代で一財築き上げたキレ者の
手段を選ばなくなれば、
賄賂、土地の違法取引、人身売買、詐欺、ネズミ講、恐喝、暴力、その悪行は多岐に渡り、莫大な蓄財に比例して、悪名は飛ぶ鳥を落とす勢いで広まった。
当然、敵も多かったが、武器販売のツテから、強力な
「触らぬ神に
当初から
そのため、実力もないのに
単なる個人の悲運として、役人には取り合って貰えず、何人死んでも
“
鬼の
遠く
古くより、江戸と京都を結ぶ
現在は、【
雄大な景色と
人類の身勝手な歴史は、この素晴らしい自然にも悲しい
江戸幕府が引き起こしたある事件だ。
それは正に鬼の
その木曽川の途中にある
――《
幕府成立時から、遠方からの参勤交代を強要し藩の
幕府への反発を防ぎ国家安全保障のためという“大義名分”の元、あまりにも頻繁に非人道的な
――どの国でも同様の事件は散見される。
治水工事の費用全額負担を薩摩藩に命じ、藩の優秀な人材を木曽川治水工事に派遣するよう強要した江戸幕府だが、その際、人・金を奪うだけでなく、
重労働で使役しても食事は罪人のような
薩摩藩の人間だけを徹底的に差別しイジめ抜く様、関係者に指令するという、
その結果、なんの落ち度もない真面目な人間を薩摩藩というだけでいびり倒し、
多数の犠牲者を出したのだ。
江戸幕府への抗議で腹を斬り自害した者が、約55名。その情報は
イジメによる過酷な強制労働による病死、事故死の被害者も数十名に登り、やはり歴史から
さらに、藩の人間を死なせたとして、同じイジメを受けていた薩摩藩総指揮の家老に、全ての責任をなすりつけ、自害を強要し死なせたのだ。
これを鬼と言わずして何とすべきか。
人間はここまで残酷になれるものなのか。
鬼の
信長の時代。
幕府と朝廷が武力で争った
江戸時代、
ここ、木曽川
飯田一門
定例の
「昨年の木曽のアガりは上々だな。」
若頭補佐の
1754年
この
表向きは、幕府と
裏では、幕府の政策に対して反対意識を持つ、国家団結の
その為、逆らう人物には
主な目的は、裏事情の方だろう。
もし、幕府側が、純粋に単なる治水工事を成功させる目的であったならば、薩摩藩に対して、治水工事の情報を全く与えずに、金と人だけ出させただろうか。
しかも、薩摩藩藩士のみ木曽川に呼び寄せ、藩士家族は一切、現地に着いてきてはいけないとの
裸足で土木工事をさせ、その傷や過労や栄養不足が起因し、多くの薩摩藩藩士が命を落とした。事故に見せかけての殺害も多いと聞く。
食事も、
監視役の尾張藩から木曽川の現地住民全てに至るまで、薩摩藩に対して
また、宝暦治水工事に関しての
現地住民の
「ヤス、
「へえ。木曽川の人間なら知らねぇ奴はいねぇです。いまだに
飯田九兵衛
脱藩に際して、飯田家と名を変え薩摩藩との繋がりが分からない様、綿密に
何故か?
飯田家の主な任務は、薩摩藩のスパイ、つまり
商人に
その役目はすでに三代に渡る。
薩摩藩や幕府からの後ろ盾は強力で、資金力、人脈はすでに
三代でここまでになっても疑問に思われない様に、飯田家にはさらに裏の使命があった。
いざ、幕府に逆らう動きがあれば、
組織内で
飯田一門の資金力も手伝い、三代目に継がれる頃には、飯田家
鬼の
飯田久兵衛豊一の背景。
裏家業である
あまりに金を
過ぎた
名誉、
それは、
その
『ヤス、所帯はまだもたねえのか。』
『自分はまだ未熟者ですから。』
齋藤
飯田久兵衛一門の若頭筆頭である。
『
その齋藤
一門の三番手となる若頭だ。
非常に
賢く礼儀正しい
一門いちのキレ者である、齋藤道安こと、通称『
この史左衛門が大変
主な表の業務は、飯田一門の
貧しい村から女どもを買取り、教育を施し、身売りをさせる。里へ仕送りをさせる事で、金の繋がりで縛り
一門の息が
又、
その生まれ育ちの不運のために知性教養が足りずに、
時には暴力で反対勢力を抑え込み、恐怖と圧力で縄張りを統制する事も日常茶飯事である。
その頭の役目を果たす史左衛門は、飯田九兵衛の悪意そのものであったとも言える。
幕府に強い繋がりと信頼を保ち続けるためのあらゆる悪業は、全て史左衛門に一任されていた。幕府に逆らう者を
飯田一門の最も
飯田九兵衛の主な仕事は、
上奏される情報をもとに、飯田一門の大きな権力を確実なものとする為、
『ヤス。俺は国が欲しい。』
『戦わずして勝つが真の王者の証明よ。』
それを目にした瞬間、飯田の顔色が変わった。
『史左衛門、あいつは信用ならねェ。』
『今の所、大きくは妙な動きはないようですが、わかり次第すぐに。』
『奴はこちらが不利となりゃすぐ糸にかかる。そうなりゃ、一門の先の弱味が一目瞭然だ。そうなったらすぐに手を打てよ。奴の取り巻きには必ず影をつけておけ。わかるな。』
『へい。既に。』
鬼の倅-おにのせがれ- サラン_小説を考える人 @SARAN-2024
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