第9話 戦隊が嫌いって訳じゃないんだ


「なあ、ウチに来ないか!?」


「すみません、俺にはとても恐れ多いです」


戦闘後、瓦礫の撤去を少し手伝っていた所をゲイザーレッドに捕まり、勧誘された。


「……もしかして戦隊は嫌い?」


「いえいえ!?嫌いじゃないですよ!ただ、俺が戦隊に入るには相応しくないだけで……」


「んじゃあ、アタシが相応しいと思った!というわけで来い!」


「なんて?」


今なんて言いました?

なんで来い!なんです?

混乱する俺は、腕を引っ張られたので足に力を入れて連れて行かれまいと抵抗するが、カラー付きなだけあって特別なチューンが入っているようだ。

パワーの違いでズリズリと抵抗虚しく引き摺られていく。


「やめなさい」


「あで」


引っ張るレッドにゲイザーブルーがチョップを正確に頭頂部を打ち、レッドは痛みのあまり俺の腕を手放す。


「なんでチョップすんだよー!」


「また無理矢理入れようするお前が悪い。そもそもスカウトするのは私の役目だ!」


周囲ではまだ修復工事やら瓦礫撤去やらで忙しそうな土木関係者とゲイザー達がいるが、その表情はいつもの事だと言わんばかりの呆れた顔で、俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

ゲイザー達は顔が見えないが、土木関係者達の顔を見れば恐らくゲイザー達も同じだろう。


「というか、レッドは女性なんすか……」


ヒーロー物の作品ではよく赤いヒーローは男性である事が多いが……いや、別に女性だから悪いって訳でも無い。

シンプルに俺の中でのイメージがそういう事であるだけだ。


「さて、引き止めてすまないな。電柱の陰でこちらを覗き見る女の子は君の連れなんだろう?」


「え?」


ブルーに指差した方向に言われて見てみれば、確かにクナがこちらの様子を伺っていた。


「す、すみません!自分はここらで家に帰りますね……」


「いいさ、親戚の子の面倒を見るのは大変だろうしな。特に女の子であれば、な」


なんだかくたびれた様なオーラを醸し出すブルーに、俺は本日二度目の苦笑いを仮面の下で引き攣りつつ浮かべてしまう。


「そ、それでは…」


大急ぎで家に帰った。

支部での出来事なんてスッカリ頭から抜け落ちてたが、これはこれで良かったと思う。

















して、問題というのは次から次に来るもんだと感じてしまう事が帰宅直後に起きた訳だけど。


「遅かったの」


「いや誰?」


狭い部屋の中で座布団の上でお茶を啜る老婆。

どこにでもいそうな姿の老婆は、俺とクナをチラリと細目を少し開けて見るとすぐに元通りになって何事も無かったの様にお茶を啜る。


「お婆ちゃん、どうやってこの部屋に入ったんだ」


俺がまず思ったのは侵入方法。

戸締まりはしっかりしていたし、さっき扉を開ける時も鍵はしっかりかけられていた。

となると、この老婆は一体何者なのか。

そんな俺の疑問に彼女はただ一言答える。


「普通に管理人から鍵を借りただけじゃよ」


「えぇ…」


ちょっとワクワクしてた俺の気持ちを返して欲しい、と言いかけたが俺の妄想が激しいだけだろ、というもう一人の俺のツッコミによって止められる。


「じゃあアンタは何しに来たんだ?」


ふと、転移魔法で銭湯にダイブしたクナの事を思い出す。

まさか、彼女がクナの保護者かそれとも親的な存在なのか。


「あたしゃアンタを鍛える為に来たんだよ。その娘の為にね」


「………????」


「困惑するのも仕方ないね。でも、アンタこのままじゃその子の取り巻く状況に押し潰されて死ぬよ」


「変な事を言わないでくれ。なんで俺がクナのせいで死ぬみたいな事を……」


「別にその子のせいで死ぬ訳じゃないよ。アンタの実力不足で死ぬって言ってるんだ」


訳が分からない。

正直、とっととこの老婆を追い出したい気持ちで一杯なのだが、心の奥底でこの老婆の言葉に少し信じるべきではないかという変な考えがあった。


「ご主人……」


身長差故に、見上げる形で俺を見るクナに俺は判断を迷う。

迷った結果、情けないが彼女の意見を聞くことにした。


「クナ、お前はどう思う?」


そう聞くとクナは少し考えて、答えた。


「…鍛えてもらった方が良いと、思う」


「そうか…」


彼女がそう判断するのなら、俺は彼女の言葉を信じよう。


「分かった。とりあえずアンタの言葉を信じるよ」


「フン、娘っ子に意見を聞いて決めるなんて情けないったらありゃしないね」


「うっ……」


やめてくれ、それは今の俺に凄く傷付く。


「まあ、信じてくれるだけマシだね。我ながら怪しい事をしてるんだしね」


「自覚はあるんすか…」


なんだか、奇妙な老婆に絡まれたなぁ。






この時の俺はそんな暢気な考えだったが、後に彼女からのシゴキがなければ何度も死んでいたと思い返す事になるのだから、運命……いや人生?というのは奇妙なものだ。





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