第8話 疑問と好奇心と戦隊



あの後、すぐに警備員に取り押さえられたが今回は研究員の非があるということで始末書等は勘弁してもらえた。

メンテも終わったベルトを手に、外で待っていたクナと合流したが……

帰り際に言われた事が俺の中で引っかかっていた。


「しかし、研究員が興奮する気持ちも分かります。彼女、若い頃のガロンソーのマド量とほとんど一緒だからね。もし彼女次第だけど今すぐメナスに来てもらっても…」


「はぁ」


本当にしつこかった。

三十年前、闇組織【ゲドバル】に改造され今も尚、戦士として戦うガロンソーと比べられても正直あんまり嬉しくもない。

憧れは憧れなのだ。

変に比べられても不快でしかない。

だが、それ以前に彼らの浮かべる顔がどうにも違和感を感じたのだ。


「彼女なら、次なるレジェンドに確実になれるだろうなぁ…」


恍惚、いや何かに夢見ているような熱い視線をクナがいるだろう方向に向けるソレは、正直気持ち悪過ぎた。

俺の知らない何かを彼女に見ているようで、ソレがやけに記憶に残った。


「そもそも、ガロンソーに匹敵するマドって…」


今でも思い返せる。

テレビの向こう側で白狼が戦闘員を薙ぎ倒し、ゲドバル星人によって改造されてしまった人々と戦い、常に孤独に戦い続けてきたその姿。

確かに熱狂的なファンを生み出しうる存在。

そんな存在に匹敵するとは、彼女の本当の姿はなんなのか俺はどうにも気になってしまうところまで好奇心が刺激されたようだ。

でも、今の彼女に聞いたってどうしようもないのだ。


「どうしたの?ご主人」


「ん?いや、何にもないよ」


帰り道の商店街を歩き、駅前に到着。

電車で3つ先の駅に乗るだけ……なのに、今日の俺の運はトコトンついていないようだ。


【異界獣出現!近隣の住民はただちに避難してください!】


「クソッタレ…クナ、お前は避難指示に従って避難しろ」


「……分かった」


反応の鈍いクナに違和感を感じつつも、俺は新品みたいに綺麗なビギナルベルトを腰に巻き付けて変身する。


「変身ッ!」


商店街の裏路地から怪人とバッタに酷似した異界獣、【バッテリ】が大量に現れる。

バッテリはバッタのくせに放電して攻撃してくるいると面倒くさい敵だ。

怪人と同レベルの異界獣だが、バッテリの一番厄介な所は怪人よりも多い群れの数だ。

一匹入れば五十匹はいる、とゴキブリのようなやつだ。

しかし、今の俺には―――


「ジジジッ…」


「アイダダダダ!?」


ゲイザーの分厚い装甲と絶縁効果のあるスーツがなければ即死だった……

体の軽い痺れで緩む筋肉に力を入れて俺はバッテリの顔を蹴り飛ばす。

バッタの巨大化とも言えるバッテリの顔面は直視したくないが、しっかり相手を見て蹴らなければ殺せない。

グシャッ、と果物が潰れるように砕けるバッテリを目に刻みながら俺は蹴り殺す。


「お前はこれだッ」


怪人はぶん殴る。

顔面を殴り、右から来る怪人をヤクザ蹴りで尻餅をつかせる。


「体が……軽い!」


軽い。

前までゲイザーのスーツの重さに肩が凝る感覚を覚えていたというのに、今はそんなものは一切感じられずむしろもっと動きたかった。


「も、もしかしたら武器も使える…?」


試しにゲイザーソードを呼び出すと、ベルトの前に灰色の片刃剣が姿を現す。


「は、ははは……ようやく、ようやくだ…!」


ようやく武器を呼び出せれるようになった。

その事実に俺は少しばかり、否、かなり感激して気を緩ませてしまった。


「ウア…」


「いづ!?」


尻餅をついていた怪人が俺の頭を叩いてきた。

お返しにゲイザーソードで真横に斬るとプシャアッ、という音ともに怪人の体から黒い体液が吹き出る。


「ガンゲイザーは…まだ無理だな。今はまだソードで限界だな。でも、ようやく使えるようになった……!」


ソードの切れ味に俺は自分でも分かるくらい笑顔であると感じた。



















ようやく手に入れた力に酔いしれるガイから少し離れた場所にて。

メナス支部の直属部隊【観測戦隊ゲイザーズ】は、一体の指揮官コマンダー級と対峙していた。


「やい!この騒ぎはお前だな!」


そうゲイザーレッドが問うと、人型のイカは「フシシシシ」と笑う。

ヒゲのような触手を震わせながら【クラーブ】は、右手の装着されている鉄球をゲイザーズに向けて放つ。

それを軽快に避けてレッドは自身の専用武器【シェイカービン】を二丁持ちでクラーブを撃つ。


「突っ込みすぎてぶつかるなよ!レッド!」


「多分、聞いてないと思いますよブルー」


迂闊なレッドを心配し忠告するブルーだが、レッドの様子を見てホワイトがそう判断する。

それぞれグローブ型の武器を装着しているブルーと大剣を担いでいるホワイトは、一応リーダーであるレッドの無鉄砲さに溜め息を吐きつつ近寄ってくる怪人とバッテリ、野犬ハウンドドッグに武器を構える。


「さて、僕達も時間稼ぎしてくれているレッドの為にも」


「ざ、雑魚を処理しないといけませんね…」


既にゲイザーグリーン、イエローは戦闘中である。

二人に加勢すべく、彼らもまた戦いの渦中に乗り込んだ。




ここで、ゲイザーズについて少し語ろう。

彼らは元々は一般のゲイザー変身者である。

そんな彼らがチームとして結成されたキッカケに、一年前の小さな戦闘に彼らの始発点があった。

まだ黒一色のゲイザー五人が、大軍…とはいかないものの、それなりに多い異界獣の数に彼らは協力して戦うことで生き延びる事ができた。

彼らとは別に駆けつけていたゲイザーは数の暴力に押し潰され重傷、もしくは戦死した。

派手ではなく、むしろ地道な連携による戦い。

即興で連携し、纏め上げたブルーとムードメーカーであるレッド、知略に長けるグリーン、そんな彼らをサポートしつつ、戦闘を得意とするイエローとホワイト。

メナス上層部が目を付けない筈がなく、黒に新しい色が与えられた。


彼らは単体では弱い。

レッドは銃を持った突撃しかできず、ブルーは射撃が全くできず、イエローは性格だけでなく扱う武器にも難がある。

グリーンは自堕落でサボりがちで、ホワイトはなんでもそつなくこなすが気弱なところがある。

しかし、チームとして動けば彼らはそこらのゲイザーよりもとても心強い戦力であり、その影響力は見知らぬ他人であっても及ぼす。






だからこそ、ゲイザーズとガイとの出会いは偶然であってもいずれ来るだろう運命でもあった。


「シェイクシェイク!バァーン!ってね!」


「そぉらぁっ!」


即興ながらレッドと共に共闘するガイとレッド。

本来はガイ程度では一瞬で蹴散らされる指揮官級グラーブを相手に、ガイは善戦したのだった。





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