第7話 メナスにて



今日はビギナルベルトのメンテ日である。

基本的にベルトに内蔵されているAIが自己修復やスーツと装着者の最適化なんかをやってくれるが、頑丈な変身ベルトとはいえあくまで応急的な措置だ。

細かい調整や見えないダメージ、スーツの修復はやはり開発元のメナスの本部、もしくは支部でやってもらう他ない。

で、そういうわけで俺はメナスの支部に来たのだが俺の隣にはクナがいる。


「楽しみ」


「ウン、ソウダネ」


周りの視線が痛い。

どこにでもいそうな成人男性と中学生くらいの美少女。

良くてロリコン認定、悪くて警察のお縄である。


「は、早く行こう。電車で来てるから早めに終わらないと帰宅する人達で混むからさ…」


「はーい」


俺の自宅からは少しばかり遠いので最寄りの電車でメナスの支部に来たのだが、改めて魔法という神秘があるくせに現代科学があるこの世界はある意味変な世界だろう。

まあ、歴史の教科書には異界からの漂流物やら漂流者が現代科学の基礎を教えただの、俺達のご先祖様達は元々は異世界にいてそこから引っ越してきただの、情報が錯綜してるみたいだけど。


「おぉ……ロボット…」


MeDメタルドールか。軍にあるやつよりも一回りデカくなってるなぁ」


俺達のいるメナス支部は海岸を隣に他県の堺までの数kmの広大な大地が演習場となっている場所だ。

無論、支部自体もデカくて、というか元々は国の軍事基地を改装したものだしこの世界にも何故かある自衛隊と共同で利用しているらしい。

他国はどうなのかは知らん。

ハレルガという国自体、俺がそこまで興味がないのもあるが……


「めたるどーる……あ、ガイだ」


「ゲイザーな」


俺の言葉を復唱しつつ、視界に捉えたゲイザーの姿に俺の名前で呼ぶクナ。

まだどこか幼気な感じが残っていて、彼女一人にするのは不安に感じさせるのだがその例として今のとような身近な物で代わりに呼ぶクセだ。

その頻度は多くないが、時折起きる事を考えるとやはり一人にするには不安である。


「ゲイザー……メタルドール……」


支部の受付窓口はまだ少し混んでいて、少し待つ事にしたが窓から見えるMeDが動く所に釘付けなクナに俺は少しばかり笑う。


「ロボ好きはロマン好きってね」


「?」


「いや、ロボが好きな人はそういう人が多いってだけだよ」


「ロマン…?」


ロマンについて何やら考え込むクナ。

俺とてロマンを追い求める気持ちは分からない訳では無い、と思っている。

現に、俺はヒーローを目指している。

それもまたロマンを追い求める者みたいなものだろう。

さて、クナはロマンについてやっぱりよく分からないようですぐに話を切り替えた。


「メタルドールが大きいのと小さいのがいるけど、どういうことなの?ごしゅ……コホン、ガー…イさん」


流石に外では気を付けるようにしてくれてるみたいだ。

家でもそうして欲しいが。


「大型化してるのは対異界獣の為に頑丈かつ火力を上げるためだな。確かウィキレに書いてあったような……」


スマホの検索エンジンでMeDについて調べる。

本当に便利だよ、スマホ。

これがない異世界ってマジでどうやって暇を潰すのやら。


「えっと……大型化したのは肉弾戦の多い異界獣の戦闘スタイルに合わせて装甲強化と出力強化する必要があり、また戦闘では近接戦闘も多くなるため柔軟な対応のできる人型が選ばれました……へぇ」


「大型の異界獣に対抗するために内蔵火器を増やし継戦能力と汎用性を求めた結果、MDは大型化と共に人のような手足を手に入れたのです」


若干端折ったが、クナも声に出しながら読み上げる。

元々のMeDは15m、それが大型化して18〜20mになっている。

それが程よい大きさなのだろうか、どのみち大型の異界獣を相手にするとなるとヒーロースーツだけでは限度がある。

メナスは世界を守る組織なのだ。

大型には対応できません、では示しがつかない。

とはいえ、CMでよく見かけるから恐らくプロパガンダ扱いなのだろう。

性能がどうこうではなく、メナスの人員不足を解消しようとしていると思われる。


「ロボオタクでも集める気か?」


「オタク?」


……意外と知らないこと多くないか、この娘。

特にサブカルの面で。
















それはともかく、ようやく受付窓口に並ぶ人達が少なくなったのでベルトを受付のお姉さんに渡してまたしばらくクナと駄弁る時間になる。


「なあなあ、クナさんや」


「なに?」


「いつまでMeDの話をするんです?」


「なんだか心臓が熱いの。気持ち的な意味で」


「そ、それはロマンを感じてる証だと思うよ……」


目をキラキラさせてネットにあるこれまで開発されて運用されてきたMeD達の画像とその詳細を見るクナに、俺は少しばかり疲れていた。

機体が多い、多いよ!?


「外国のも合わせれば数百は下らないって、どんだけ作ってるんだよ…」


俺が疲れた様子を見せているせいか、彼女は気不味くなったようだ。

それ故か、彼女はとある場所を指差す。


「じゃあ、あれやってみていい?」


指差した方向にあるのは受付ロビーの右端に設置されているヒーロー適性検査の受付だった。

……本来の俺だったら「ヒーローなんて俺が言うのもあれだが碌なもんじゃないからやめとけ」って言ってただろう。

だが、この時の俺は頭を使い過ぎて適当な感じになっていた。

それに、見た目がカッコよくて好きぐらいしか思い入れがないMDから離れるなら何でも良かったのもあった。


「……じゃあやってみる?」


「うん」


大喜びで検査受付の所までダッシュで行くクナ。

なんだかんだで子供だなぁ、なんて思っていたがそんな呑気な気持ちでいられたのは彼女が検査を受けるまでだった。





ーーー






最初に言っておこう。

彼女が受ける検査はビギナルベルトを貰う時に俺もした事があるし、メナスが将来の有望株を見つけ唾を付ける為だけの、所謂お試し検査的な奴である。

だから、この検査から熱烈な誘いが来るのは例え同じ様な有望株がいたとしても本来有り得ない対応なのだ。


「この子、マドの限界値が滅茶苦茶高いぞ!?」


「嘘!?少し前の子は少し高いだけだったのに…」


明確な数値化ができないので検査機が表示するゲージでしか比べられないのが科学者として無念、等と昔に検査機を作った人が言ってた気がする。

いや、今はそれは関係ない。

完全に受付の人に囲まれたクナを助けなければならない。

体格的にどの人もクナよりもデカい。

彼女が感じる恐怖は大きいだろう。


「ちょっと!クナが嫌がってるだろう!?」


「君!是非メナスに来てくれ!今からでも構わないッ!」


「というかむしろ、今から来て!」


二人の受付の人、いや白衣を着ている服装からして研究員なんだろうか。

とにかく、物凄く興奮してきて俺の話を聞きやしない。


「た、助けてご主人……!?」


「こら!離れて!怖がってる!」


「あっ!君!邪魔をするな!」


「ゴハッ!?」


俺と同族の人間、しかも研究員なのに割と良いパンチを顔面にくらい俺は床に尻もちをつく。


「な、殴ったなコノヤロ!?」


流石にブチ切れるぞ!?


「ゲイザー舐めんなぁぁ!」


ヤクザキックで俺は殴った男を蹴っ飛ばし、クナの手を掴んで離そうとしないもう一人の研究員を羽交い締めにしてクナから離す。


「クナ!外に!出ろ!」


「離せ!変態!ポンコツ!アホ!」


「それはオメーだよ!」


なんで下っ端とはいえ、ヒーローがこんな事せなアカンのだ。


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