あなたの色はどんな色?

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

トリ〇〇〇

 皆さんは気合いが入るような色がありますか。私の場合は黒です。黒い色を見ると俄然、やる気が出てくるんですよ。よっしゃあ、やるぞって感じですね。


 逆にやる気が削がれる色と言うのもあります。私の場合は白と緑がそれに当てはまります。なんだかもうどうでもいいや、そんな気分になってします。なんだか自分がお呼びでないような、そんな気分にさせられるんです。実際そうなんですけどね。


 黄色もそれほどそそられない色ですね。黄色も大事な色です。それはわかっているんです。でもこの色を見てやる気が出てくるかと言うとそうではありません。まだそんな気にはならないんです。


 黒の他にやる気が出る色はないのかって? ありますよ。灰色もそうですよ。黒と変わらないくらいに。バリバリやる気が出てきます。もうすぐ出番だ、いくぞぞって気合いが入るんですよ。


 地味な色ばかりじゃないかって? そんなことはないですよ。青も気力が湧きますよ。一分一秒を争っている緊張感がたまらなくて胸がとってもドキドキしてくるんです。でも落ち着けと自分にしっかり言い聞かせています。


 赤はどうかって? もちろん力が入る色ですよ。あのバスケットボールチームの色です。この先どうなるかわからないけれど「あきらめてしまったらそこで試合終了ですよ」という有名な先生の言葉のように最後まで油断なく気を緩めずに立ち向かう覚悟が得られますから。


 私が今いる病院は紛争地帯にあります。


 爆撃や砲撃のあと、病院には負傷者の方が次々と運び込まれて来るのでてんてこ舞いになります。私たちも仕事の優先順位というものを考えなければなりません。いくら病院に運び込まれてきたからといっていちいち全ての患者さんに対応する余裕なんてありません。


 私たちは今すぐに心肺蘇生措置が必要な患者さん(青)、緊急治療が必要な重傷患者さん(赤)、この病院では救命のための道具や設備が不十分だから急いで他の病院に転院が必要な重傷患者さん(灰色)の対応を優先しなければなりません。時間は有限。待ってくれないのです。


 バイタルサインが安定していても明らかに重傷な患者さん(黄色)の優先順位がこれに次ぎます。見た目が派手なケガで痛がっていても生命の危険度が低い軽症の患者さん(緑)、治療がほぼ不要なかすり傷の患者さん(白)はどうしても後回しになります。


 そういった患者さんの状態を評価して他の方がパッと見ても分かるように色で識別できるようにするのがです。さっき患者さんの後ろに括弧で色を入れたアレがその一例です。


 じゃありませんよ、です。


 は原則は医師が行うことになっていますが、状況によっては、救急救命士や看護師など救急医療に 関する知識を持った者が行う場合もあります。災害現場ですと通常は救命救急士が真っ先に到着しますから、彼らが行うことが多いです。


 このは本当に私たちの仕事に役立っているんです。


 私たちは看護師さんなのかって? 残念ながらそうではありません。


 看護師さんはお亡くなりになったり生命の回復がもはや不可能な患者さん、が黒の患者さんの対応は優先順位が最下位です。


 ところが、私たちの仕事ではそんなが黒の患者さんへの対応が最優先なのです。


 私たちは死神ですかって?


 とんでもありません。私たちは人間を死にいざなうことはけしてしません。そんなことをするのはむしろ人間たち自身の方でしょう。私たちはただ人間の死を見守り、死を迎えた方々を導くのが仕事です。


 そう、私たちは天使です。看護師を意味する白衣の天使ではなく本物の天使です。


 一度に大勢の方が亡くなってもできるだけ速やかにお迎えして天国にご案内しなければなりませんから、こうして医療関係者が行ったを見て患者さんのそばで文字通りスタンバイしているのです。


 私たちも気合いを入れて頑張ってはいるのですが、あなたをずいぶんとお待たせしてしまいました。ごめんなさい。さあ、急いで。直ぐに参りましょう。


 願わくば次の人生ではあなたが死を迎えたあと、速やかに天使と会えますように。こんなに慌ただしく旅立たなくてもいいように。


 一度に沢山の人々が当たり前に亡くなるような国ではなく、平和な国で生まれて穏やかな大往生を迎えることができますように。


 心から祈ります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あなたの色はどんな色? 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ