【KAC20246】潜入調査ルポ小説「カクヨムのイベントに行ってみた!」

人生

 調査結果:トリ、会えず




 本日、私は「世介文学サミット2024イントゥーキョー」会場内に出展されている、小説投稿サイト「カクヨム」ブースの潜入調査に訪れました。


 来場者には、あの有名な「トリ」のレアグッズがもらえるそうです。

 また先日、カクヨム公式キャラクターのあの二人がヴァーチャルストリーマーとしてデビューすることが発表されましたが、その声と3Dモデルがこの会場で初お披露目されるそうです。


 カクヨムブースには、「バーグさん」のコスプレをした方が立っていました。さすがKAD〇KAWA、どちらかといえば厳かな雰囲気のある「文サ」でも堂々とコスプレイヤーさんに案内を任せています。


 会場では「トリ」が徘徊しているそうですが、近くにはいないようです。レイヤーさんに訊ねてみましょう。


「トリさんはいらっしゃいますか?」


「トリ?」


 首を傾げられてしまいました。


 私が少々気恥ずかしい想いをしていますと、奥の方から大きな着ぐるみが現れました。いました、トリさんです――うん?


 なんでしょう、ツノが生えています。コスプレでしょうか。角カワだけに?


 ともあれ、トリさんと一緒に撮影できるか訊ねてみましょう。


「トリさんと一緒に写真を撮ってもいいでしょうか?」


「トリ?」


 再びレイヤーさんが首を傾げます。


「いや、あの、こちらのマスコットの……」


「あはは。これはシカですよ」


 レイヤーさんが笑って言いました。


 ……何を言っているのだろう?


 カクヨムのマスコットといえば、トリ――マスコットであるにもかかわらず、真の名前も明かされていない謎のトリ――


「こちらは『ヨムシカ』という、シカです」


「……鹿? ……え? カクヨムのトリ、ですよね?」


「カクヨム? こちらは『ヨムシカ』のブースですが?」


「え? すみません、間違え――てませんね? ここ、カクヨムのブースのはず……」


 私は自分の情報が間違っていたのかと思い、念のため、スマホでカクヨムアプリを立ち上げようとしました。


「?」


 アプリのアイコンは、間違いなくカクヨムのそれです。しかしその名前は「ヨムシカ」となっています。


「え? え? カクヨムは……」


「カクヨムとはなんですか?」


 レイヤーさんが私に、笑顔で訊ねます。


「カクヨムとはどういう意味ですか?」


「え? いや、あの……」


「あなたはカクヨムの何を知っていますか?」


「あ、あ、あ……」


「こちらはヨムシカのブースです。そしてこちらのマスコットは『本を読むしか』のヨムシカ」


 鹿のマスコットがこちらに近付いてくる。私の知っているトリに酷似しながら、その頭には二本のツノが生えている。まるで悪魔のようだ。


 何かがおかしい……。ここは私の知っている世界とは、何かが違う……。


「写真、お撮りになりますか?」


 レイヤーさんの提案に、私はとりあえず頷いておいた。


 悪魔のようなマスコットと並び、写真を撮る。私は自分が何か、大切なものを失ったような気がしていた。




   ×




 現代人ひとびとは皆、スマホから入手した情報を真に受ける。


 たとえば、相手の名前をタップして電話をかける。その際、番号を確認する人は少ないだろう。仮にその番号がわずかに変化していても、誰も気づくまい。


 たとえばツイッターを開いたとき、「小説投稿サイトカクヨム@kaku_yomu」が「小説投稿サイトヨムシカ@yomu_sika」になっていれば、それを受け入れるだろう。事実としてアカウントがそうなっているのだから、自分の目を疑っても、呑み込むしかない。


 現実の改変は簡単だ。

 たとえば無料Wi-Fiを通してスマホの情報を改変すればいい。そしてカクヨムブースを「ヨムシカブース」につくりかえれば、来場者はそれを受け入れるしかない。


 そうしてまた一人、読志化ヨムシカが完了した。


 読志とは、ネクストプランに課金し、貪るように読書する存在のことである。


 彼らは知らない。

 そのマスコットキャラクターの正体は鹿に寄生したエイリアンであることを。本体である鹿はもはやゾンビに過ぎないということを。


 彼らは知らない。

 そうして世界は少しずつ、何者かの都合の良いように改変されていっているということを――



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