第15話 「星空が輝く夜」
「……」
エシャは驚きで固まってしまう。
想像していたのとは全く違う答えに、「何がいけなかったんだろう」「どうして駄目だったんだろう」という思考が、頭の中をぐるぐると
ようやく「そう、ですか……」と返答をしたとき、マイーヤは次にこう言った。
「だが、この『いいえ』は建設的な否定である。何故なら、私は、そなたの生まれた国である
「え……?」
エシャはよく分からず、動揺して視線をあちらこちらに向ける。
そのとき、サリーとシラムが視界に入った。彼らはエシャと視線が合うと、力強くうなずいたのである。
「エシャ殿の
エシャはようやくマイーヤが言わんとしていることが分かり、気づけば「あ……」と声を
「彩の国とは、友好な関係を築けそうである。私の娘と息子との交流も、今後ともよろしく頼みます」
マイーヤはそう言うと、エシャに向かって
驚いたエシャは、慌てて頭を下げる。
「う、あ……こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします……!」
するとその瞬間、その場がわっと人々の喜びの声でいっぱいになった。
エシャが何事かと思っていると、サリーとシラムが駆け寄ってきて、エシャに飛びついた。
「うわっ」
「エシャ、よかったね!」
「やったな!」
「う、うん? うん……!」
エシャはあまりに色んなことが一度に起こりすぎて、何が何だかよく分からなくなっていたのだが、サリーとシラムがとても嬉しそうにしていることと、ちらと見えたマイーヤの顔に、穏やかな表情が浮かんでいるのを見て、「無事に上手くいったのだ」ということをエシャはじわじわと実感するのだった。
それからエシャの帰国と共に、アークの国の使者が共に彩の国へと向かった。
彩の国の王は、アークの国の長が来ることを歓迎し、二人の初対面が
☆
「皆、分かったかな? こんなふうにして、彩の国とアークの国は仲良くなったんだよ」
彩の国にある「子どもたちの学び
「先生、もしかしてこの本に使われている『
生徒の一人が尋ねたので、先生はうなずいた。
「そうだよ。『イーク』っていう名前もね、『彩の国』の『い』と、『アークの国』の『ク』が合わさっているんだよ」
「へえ!」
「ねえ、皆、この黒、とってもきれいだと思わない?」
先生が尋ねると、教科書を見ていた生徒たちは小首を
「うーん、どうかなぁ」
「よく分かんない」
「いつも見ているしね」
「イーク」は、生徒たちが習ったことを書きとめる筆記用具としても使われている。当たり前にありすぎて、今の生徒たちは特に何も思わないらしい。
先生は「そっかぁ」とちょっと残念そうにすると、一人の女の子が「あたしはきれいだと思うな」と言った。
「お、いいね! どんなふうにきれいかな?」
「書くときにね、星空が輝く夜みたいだなって。思うの」
「どうして?」
先生は「黒色がきれいだな」とは思ったが、「星空が輝く夜」というふうに思ったことがなかったので尋ねる。すると、女の子は「イーク」が入った
「こうやってね、イークで線を引くと……ほら」
そして女の子は、まだ乾いていないところを指さす。
すると、その部分が、黒いけれども、窓から差し込む優しい日の光を反射して、きらきらと光っていた。
「本当だ。乾いていないところが、暗い夜に星がきらきらしているように見えるね」
「うん!」
女の子が嬉しそうに笑ったとき、ちょうど外からカンカンッという音が鳴り、人の良さそうな日焼けをしたおじさんが、ひょこっと顔を出した。
「おーい、皆! そろそろお昼だよ! ご飯にするぞ!」
この学び舎では、お昼になると三件隣の食堂のおじさんが、生徒たちにお昼ご飯を用意してくれている。ちょうど日が真上に昇り、昼食の用意もできたので、いつも通り呼びに来てくれたのだ。
「わーい!」
「ご飯だ!」
生徒たちは一斉にお昼ご飯のほうへ行ったが、先生だけは一人、片づけをし、こんなことを呟いた。
「二つの国の二人の王子と、一人の王女に感謝を」
そして白い肌で黒髪の先生は帽子を被ると、部屋に鍵をかけ、生徒たちの後を追って、店に行くのだった。
「彩の国」と「アークの国」の友好は、エシャとサリー、そしてシラムが出会って二百年
(おしまい)
☆KAC20247☆ 彩の国 彩霞 @Pleiades_Yuri
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