メモの謎を解け

大田康湖

メモの謎を解け

 日曜の昼下がり。自室でクイズ本を読んでいた小学五年生の西松にしまつ菜々ななのところに、父親の貴一きいちが駆け込んできた。

「菜々、ママがどこに行ったか知らないか」

「知らない。スマホで呼び出せば」

 本に夢中の菜々は迷惑そうに答える。

「スマホは充電器に置きっぱなしだ。代わりにこんなメモがキッチンにあった」

 貴一が菜々の鼻先にぶら下げたのは「トリあえず」と書かれた紙切れだ。すると突然菜々の目が輝く。

「きっと『これを解いて迎えに来て』って、パパとあたしへのメッセージだよ」

「本当か?」

 いぶかしげな貴一とは対照的に、菜々はしげしげと文字を眺め、自分のノートにメモをとりはじめた。

「トリあえず=とりあえず・鳥会えず・取りあえず、なんかピンとこないな」

「もしかしたら、402号室の鳥居とりいさんのことかもしれないぞ。鳥居さんに会えず、なんてな」

 茶化す貴一に菜々が尋ねる。

「それってメモに残すほど大事なことかな。パパ、そのメモ貸して」

 貴一からメモを受け取ると、菜々は紙をひっくり返した。

「これ、昨日のスーパーのレシートだよ」

 菜々はレシートをチェックし始めた。

「サラダチキン、キュウリ、長ネギ……ママ、何を作るつもりだったのかな」

 その時、菜々の脳裏で買い物のメニューとメモの言葉が結びついた。

「そうだ、きっとトリがサラダチキンのことなんだ」

「それじゃ、『あえず』はなんだい」

 貴一の問いに菜々は首を傾げながら答えた。

「トリ、つまりチキンは和えない、つまりチキンなしで和え物を作るの」

「なるほど、でもパパはチキンが入った方が好きだな」

 貴一がそう答えたとき、母親の伊世いよの声がした。

「パパ、菜々、今帰ったわよ」

 あわててキッチンに戻った二人に、レシピの紙を持った伊世が呼びかけた。

「昨日スーパーで会った鳥居さんに、いいレシピがあるって教えてもらってメモしてたの。『トリあえずチキンのサラダ和え』」

「メニューの名前だなんて、聞いてないよ」

 菜々はずっこけた。

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