【KAC2024】巻き戻し探偵神宮寺那由多は巻き戻す とりあえずと言うなかれ

白鷺雨月

第1話とりあえずと言うなかれ

「とりあえずビール」

保村ほむら敬士たかしがそう言うと向かいに座っている神宮寺那由多がむすっとした顔になった。

ここはとある居酒屋の個室である。

保村敬士は神宮寺那由多のことが好きである。那由多は食事に誘えば、ほぼ来てくれる。

ただし、かなりの大食いで、割り勘しても割に合わないが。

それでも敬士はそんな那由多のことが好きなので、食事に誘うのである。


那由多は黒髪ボブカットのけっこうな美人である。背は低く、百五十センチメートルほどで、やせ形だ。目が大きく、どこか猫を思わせる風貌をしている。

まさに敬士のタイプにどストライクだっのだ。


「とりあえずってのはビールにたいして、いや食事に対して失礼だと思うんだよね。人生で食事の回数は限られてるんだよ。とりあえずなんて適当なこと言わずにちゃんとかんがえなくちゃあ」

メニューを真剣にみつめ、那由多は言った。


「ごめん」

敬士は謝る。


「まあ分かればよろしい」

まるで先生のような口調で那由多は言った。


ほどなくして店員が来たので那由多は注文する。

「じゃあポテトフライにバターコーン、唐揚げ、軟骨の唐揚げ、揚げ出し豆腐、焼きおにぎり、たこ焼き、ホッケに刺し身三種盛り合わせ、だし巻き玉子、コロッケをお願いします」

すらすらと那由多は頼む。

敬士は知っている。

これはまだ前菜にすぎないと。

店員は機械に注文されたメニューを打ち込むと消えていった。


しばらくして店員が戻ってきて、テーブルにメニューが次々と並べられる。直ぐにテーブルはいっぱいになる。

ところせましと並べられる料理を見て、那由多はにこりと微笑んだ。

この笑顔をみたくて敬士は那由多を食事にさそうのだが、エンゲル係数がはねあがるのが悩みのたねだ。


テーブルの上に一つ頼んでいない料理がある。

「これは何?」

敬士は店員にきく。

「こちらはサービスの鳥の甘酢和えになります。新メニューになります。どうぞお試しくださいね。よかったらアンケートにもご協力ください」

にこやかに店員は言い、個室をでた。


「なるほどトリ和えか」

ボソリと那由多は言った。

「えっなにそれだじゃれなの?」

苦笑し、敬士は那由多の丸いかわいらしい顔を見た。

思わず言ってしまった駄洒落に那由多は顔を赤くしていた。

「今のはなかったことにする」

那由多はスカジャンのポケットから銀時計を取り出し、時間を逆行させた。

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