目が覚めたらボクはトリになっていた。【KAC20246】

空豆 空(そらまめくう)

第1話

「おじさーん、とりあえずビール!」


「あいよ、生一丁~!」


 ……これは、どういうことだろう。


「おじさーん。焼き鳥一本追加でー!」


「あいよー焼き鳥一本追加あ!」


 ……ボクは昨日もいつも通り布団で寝たはずだったのに。


「おーい、トリ、とりあえず、“トリあえず” 踊って!」


(…………!!)


 目が覚めたらボクはトリになっていて、トリと呼ばれていて、そしてよく分からない宴会の席で、“トリあえず” というタイトルの、よく分からない踊りを、今、踊れと言われている。


(……なんで? どうしてこうなったの?)


 昨日の夕飯の時、唐揚げにレモンをかけるかかけないか、嫁と喧嘩したからトリの神様のお怒りにふれたのかな。


 なわけ、あるかあ――――――――い!!


「おい、トリ!! 突っ立ってないで、とりあえず“トリあえず” 踊れって」


(…………い、いやだ!!)


 心の中で拒否するものの、この声は届くはずもなくて、取り合ってもらえず。


「おいートリ、早く踊らないと鳥神様が怒っちまうだろ? とりあえず“トリあえず” の音楽流すぞ~?」


(仕方がない。ボクも男だ、覚悟を決めよう。ここでバッチリ“トリあえず” を踊って、鳥神様を上機嫌にしてやろうじゃないか。そして、ボクを人間に戻すように訴えてやろうじゃあないか)


 いざ!!


 そう思って両手を上げてみるのだけど。どうも身体が重たくてうまく動けない。視界も暗いし、それにとにかく暑い。


 まぁ、トリになったばかりだからまだ身体が順応出来てないんだろう。視界が暗いのは、これがトリ目というやつなのかな。暑いのは全身が羽で覆われているせいだろうか。


 トリって……大変なんだな。


 …………トリ? 待て待て、ボク、トリになったなら、よく分からない“トリあえず” なんて踊りを踊らなくても、自由に飛び立てばいいんじゃね?


 大空に羽ばたいて、自由に生きればいいんじゃね?

 そしたらボクはもう、自由だぁぁぁ!!



 ――そう思った時。ぐるんと目が回って、ボクの視界は真っ暗になった。



「おーい、林さんが倒れたぞー! 誰かとりあえず水!! 水持って来て!!」


「それより、背中のファスナー開けてやれって!!」


「あーそうだな。もー林さん、酔った勢いでトリの着ぐるみ着て“トリあえず”を 踊る役を変わるとか言い出すからー」



 ……あれ? 今度はボク、たまごから生まれるヒナになったのかな。

 背中がスース―してきたぞ。


 あぁ、真っ暗だった殻の中から出て、すがすがしい気分だ!



「林さーん? 聞こえてます? トリの着ぐるみ、脱がせましたよー??」


 林? 今、林って言った? それはまぎれもなくボクの名前。


 ボクは鳥神様には会えなかったけど、人間に戻ることには成功したようだ。


 ――我が人生に、乾杯!!




「あーあ、林さん。酔いつぶれて寝ちゃったよ」


「いいよいいよ、もう寝かせておいてあげな。なんか……幸せそうだし」




*お酒は二十歳になってから。適量を守って楽しく飲みましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

目が覚めたらボクはトリになっていた。【KAC20246】 空豆 空(そらまめくう) @soramamekuu0711

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ