トリあえず
だら子
第1話
塩男。
ご存知、焼き鳥で塩しか認めない男のことだ。
塩男は、息を切らしながら、焼き鳥屋のカウンターで声を張り上げる。
「もういないんだな。トリあえずタレ派のやつは!」
大将も客も震えながらカウンター奥の厨房にいる。そこに一人の細い木の棒のようなオドオドした男が手を挙げる。
「ぼ、ぼくタレ派です」
女連れだが、女の方がキリッとしていて強そうである。
「そんな折れそうな身体に申し訳ないが、差別なく、俺は戦わなければならぬ!!」
塩男は、棒男の腹に一発決めようとした。が、背後から声が聞こえる。
「何と戦っているんですか?」
(よ、よけた??嘘だろ)塩男は振り返り棒男の横っ面に振りかぶるもまた背後に気配を感じる。
「ま、まさか、お前」
と呟くと同時に棒男の低い声が聞こえた。
「俺が噂のタレ男だ」
正体不明の焼き鳥のタレしか食わない男が、人助けをしているとの噂だ。
連れの女も知らなかったようで、目を丸くしている。
胸ぐらを掴んだ棒男いやタレ男は、塩男を一気釣り上げる。
「うっ」
塩男が、焼き鳥の煙に囲まれた1秒後、床に叩きつけられていた。
「トリあえず最初の一本は塩なんだよ!タレは邪道なんだ。素材の味を引き立たせるためには…」
そう言い終わる前に、タレ男が塩男の後頭部を飛び蹴りする。
「正義はな、時に戦争を引き起こすんだよ!!」
タレ男の顔はタレっぽくなく塩顔。ややこしい。
「タレが好きなやつは浮気する。そしてなんの罪悪感もなくまた塩に戻ってくる。そんなそんなことが許されるのか!?」
塩男はそう言いながら力を振り絞るが、最後のパンチは空中を撫でた。
昔浮気された女のことを考えたが、タレがかかっているように顔を思い出せず、塩男は気絶した。
「やった!!」
大将がドンと言う音を立て大量のタレの鳥串を置く。
「トリあえず、乾杯だ!!」
「大将、タレの次は塩も作ってくれ!!」
好きなときに、好きな味を食べればいい。
タレ男は1人で夜の中に消えていった。
トリあえず だら子 @darako
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