第九話:聖者と勇者を知る剣聖
突然の来訪者に、神也達が思わず振り返ると、そこには二人の人物が立っていた。
ピンク色の長髪に片眼鏡をした、どこか気落ちしたように俯く、エルフの女性と、目立つ大剣を背負う褐色に白髮の、意味深な笑みを浮かべた渋い男。
男を見た瞬間、はっとしたブラウが思わず叫ぶ。
「け、剣聖、サルヴァス様!?」
「えっ!?」
釣られて涙顔のままフラナも顔を上げ、神也達も少し驚いた顔をする中。
「あれ? システィちゃんじゃーん」
彼等とは別に、ちょっと驚いた声を出したのはメリーだった。
声を掛けられ、ビクッとしたシスティがちらりと目線を上げるも、すぐにまた目を伏せる。どこか後ろめたさを感じる雰囲気に、玉藻が少し怪訝そうな顔をする。
「……システィよ。
刺すような鋭い言葉に、ギクッっとするシスティ。
図星。誰もがそう感じるだけの反応に、機嫌を悪くしたのはあやかし達だ。
「まさか、厳正であるべき試験官が、権力に屈するとか。ほーんと、やってられないね」
「ほんとよねー。で、わざわざメリーちゃん達の所に顔を出したってことはー、様子でも伺って来いって頼まれたのかなー?」
肩を竦めた六花に頷きながら、露骨に不貞腐れた顔をするメリーが指を差し憎まれ口を叩く。
「あ、あの……その……」
彼女達の圧にすっかり萎縮したシスティは、しどろもどろになり言葉すら出せずに見を小さくしたまま動けない。
再び嫌な沈黙が続く中。彼女の心の内を読んだ鴉丸が、静かに口を開く。
「止めよ。この者もまた、あの卑しき男に脅されただけ。責めても何も変わらん」
「……ほう。そこまで察する者もおるか。やはりシンヤとその仲間達はひと味違う、といった所か」
皺の多い顔に笑みを浮かべ、サルヴァスが笑うと、システィを促しギルドの中へと入って来る。
彼等が神也達の前まで来ると、未だ表情を崩さない玉藻がサルヴァスに声を掛けた。
「剣聖サルヴァスとやら。もしや、
「いや。残念ながら、冒険者ギルド中央協会が認めた決定。俺一人では変えようはない」
「では、何用じゃ?」
彼女の棘のある問いかけにすぐには答えず、サルヴァスがカウンターにいるブラウ達を見る。
「ここのギルドの経営者は……」
「は、はい!
「そうか。ここにいるシンヤ達と内密に話をしたい。ギルドを貸し切れるか?」
「は、はい。承知しました。フラナ! 店仕舞だ!」
「う、うん!」
ブラウの言葉を受け、慌ててカウンターを飛び出したフラナが外のボードを閉店に変え、ギルドの扉に鍵をかけた。
緊張しながら、ブラウの脇に戻った彼女を見届けると、サルヴァスは神也に向き直る。
「シンヤよ。お前が昨日助けたいと願った者達がそこの二人か?」
「はい」
──本当に、迷いを見せぬな。
席を立ち、しっかりと正対する神也。
以前と変わらない彼の真っ直ぐな返事に感心しながら、サルヴァスは話を続ける。
「そうか。であれば、あの者達も運命を共にする者、という事でよいな?」
「……それは、どのような意味なのですか?」
同じく神也の脇に立ったセリーヌが訝しむと、サルヴァスが表情を引き締める。
「この後、俺やシスティは包み隠さず色々な話をするだろう。が、話す相手はここにいる者達のみ。他言無用としてもらいたい。皆、よいか?」
「え?
「勿論だ。
「システィさん。あの人に命を狙われているんですか?」
神也が少し驚いた顔をすると、システィは俯いたままちらりと彼を見た後、勢いよく頭を下げた。
「申し訳ございません! あの方が皆様をGランクにと仰られた時、抗ってみせたのですが、断れば命はないと脅されてしまい……」
身を震わせているのは、命を狙われている恐怖か。はたまた、後悔の念からくるものか。絞り出すように言葉を口にしたシスティに、神也が優しく言葉をかける。
「システィさん。頭を上げて下さい」
声に釣られ、システィが頭を上げ神也を見ると、彼は微笑んでみせた。
「ありがとうございます。抵抗してくださって」
「え? で、ですが。結果として、皆様はGランクに……」
「命を狙われるまでの事を言われたんです。仕方ないですよ。システィさんに罪はありません。どうか、自分を責めないでやってください」
「……あ、ありがとうございます」
彼女からすれば、あまりに予想外な優しき言葉。
それが心にあった罪悪感を溶かしていき、システィの瞳を潤ませる。
が、次の言葉を聞いた瞬間。その感動は一瞬で吹き飛んだ。
「……流石、聖者に相応しき優しい言葉だな」
「せ、聖者!? 嘘!? シンヤが!?」
サルヴァスの言葉に、目を瞠ったはシスティだけではない。声を上げたフラナも、愕然とするブラウや神也、セリーヌもまた目を丸くした。
唯一、あやかし達が咄嗟に身構えるが、それを見たサルヴァスは敵意など見せず笑う。
「まったく。そこまで警戒をするな。俺は味方だ」
「だったら聞くけど。あんた、どうやってそれを知ったんだい?」
六花が強く言葉で牽制すると、やれやれといった顔をしたサルヴァスが表情を引き締める。
「俺は剣聖として、
そう言うと、彼等の警戒すら気にも止めず、サルヴァスが神也の前に歩み出るとひ跪く。
「まさか、生きて聖者とお会いできるとは。剣聖として最高の名誉。感謝致します」
「ま、待って下さい! サルヴァス様! 確かに僕には素質はあるって聞きました。ですが、別にそこまで凄いことはしてません。ですから、そんなにかしこまらないでください」
「……心遣い、感謝する」
慌ててサルヴァスにそう返した神也。
真実を隠そうともしない一言に、あやかし達は思わず肩を竦める。が、敢えてそこでは何も言わず、事の成り行きを見守る事にした。
跪いたままのサルヴァスは、そのままセリーヌに向け顔を上げる。
「そして、勇者の末裔である
「……え? な、何故それを……」
「
まさか、自身の素性もばれているとは。
驚くセリーヌに、サルヴァスは頭を下げ言葉を続ける。
「本来、剣聖は勇者を護りし盾。ですが、若き日に師である先代の剣聖を失った事で、亡き師の同郷の友に師事し、ライアルド王国に仕えることになった為、十年前のガルダレム帝国との戦にて、シャルイン王国に駆けつける事も叶いませんでした。その節は、大変申し訳なく……」
言葉に滲み出る悔しさを感じ入り、セリーヌはふっと柔らかな表情を見せる。
「……サルヴァス様。そちらにもご事情があったのです。お気になさらないでください」
「……優しきお言葉、痛み入ります」
「あと、
「はい。では、此処から先は
まるで騎士のように落ち着いた態度を見せた彼は、すっと立ち上がると神也とセリーヌに正対し、もう一度深々と頭を下げる。
「ま、まさか……サルヴァス様。今のお話は……」
神也が聖者だっただけでなく、セリーヌが勇者の末裔とまで聞けば、システィも驚きを隠しようがない。
頭を上げたサルヴァスは彼女に顔を向けると、しっかりとした強き口調でこう伝えた。
「真実。だからこそ我等は運命を共にする。絶対にここでの話は外で話すな。それが、お前を救うことにも繋がる。よいな?」
「は、はい」
「そちらの二人も。シンヤ達に命運を託しておるならば、ここでの話は口外するな。よいか?」
「は、はい!」
背筋を正したシスティとカウンターにいるブラウ達が緊張した面持ちで頷いたのを見て、サルヴァスは無言で頷くと、再び神也達を見た。
「さて。ではシンヤよ。ここからが本題に入ろう」
「本題ですか?」
「うむ。どうか、俺に手を貸してくれはくれまいか?」
「手を貸すって……何をすれば」
「詳しくはあちらで話すとしよう。システィ。あのテーブルに例の依頼書を」
「は、はい」
サルヴァス達二人はフロアにある丸テーブルの一つに向かうと、システィがそこに一枚の紙を置く。
それこそが、冒険者パーティー百鬼夜行の行く末を決める物だとは、まだ神也達も知る由もなかった。
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ということで、久々に三人称に苦戦して、かなり時間がかかってしまい申し訳ございません(汗)
今回は会話回だったのも大きく、そこをどう読ませるかとか悩んで相当書き直しや削除もしていたので……。
さて。聖者と勇者を知るサルヴァスの用意した物は何なのか。
また別作品更新に回ってからとなりますが、よろしければのんびりお待ち下さい!
百鬼夜行の英雄伝 〜未熟な聖者と勇者は最強のあやかし達に支えられ、異世界で英雄となる〜 しょぼん(´・ω・`) @shobon_nikoniko
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